フランスの後期中等教育(リセ)卒業資格および大学入学資格をいう。この資格取得の試験を意味する場合もある。資格取得者をバシュリエbachelier(男),バシュリエールbachelière(女)という。学生間ではバックbac,バショbachotと略称する。この試験に備えて集中的,特訓的な勉強をすることを1910年ころからバショタージュbachotageといい,この語は公的文書では1960年代から用いられている。バカロレアの語源は,〈月桂樹の実〉を意味するラテン語のbaccalauriである。フランス語の音韻の発展により,10世紀には騎士になろうとする若者の意に用いられたが,13世紀になり,大学人の間で,大学での最初の学位(学士号)を意味するにいたる。19世紀初頭のナポレオン学制によって,従来の大学での最初の学位の意味と,高等教育機関に入学を認められるのに必要な中等教育修了認定証の意味の二つに分けられ,今日では後者の意味に用いられる。現在のフランスのバカロレアの種類は,一般,技術系,職業系などに分けられているが,時の政府の教育政策によって変えられる。今日,バカロレアの合格率は70~80%であるが,他方バカロレアを取得できずに学校を離れる無資格の生徒の就職難が社会問題化している。
フランスのバカロレアに相当する制度が西ドイツのアビトゥーアAbitur,イギリスのGCE(General Certificate of Education)やCSE(Certificate of Secondary Education)である。アビトゥーアの起源は18世紀フリードリヒ大王の時代といわれるが,第2次大戦後の旧西ドイツにおいては,連邦を構成する11の州の文部省が監督し,ギムナジウムおよび総合制中等学校の校長の責任で実施されるようになった。また,1990年の東西ドイツ統一後は,旧東ドイツ地域も含め,全16州の文部省監督のもとに行われている。試験は,一般にドイツ語による論文と受験者が履修した課程に応じた2科目について行われる。しかし1960年代からのアビトゥーア取得者の急増に対して,受入れ側の大学の教育条件が十分でないという深刻な矛盾に当面している。イギリスの場合は,18世紀末までにケンブリッジとオックスフォードが相次いで入学者選考機関を設けたが,近代市民大学が増加するに伴い,大学が共同して入学者の学力認定をする試験委員会が設けられるようになった。今日では八つの試験委員会がある。大学や教育カレッジへの入学希望者に対して行うのがGCE試験であり,就職や職業教育を行う継続教育機関を希望するものにはCSE試験がある。GCEには上級と普通の二つのレベルがあり,大学入学の資格は2科目の上級レベルと3科目の普通レベルに合格することが最低要件となっている。しかし中等学校制度の改革によってさまざまな問題が生じており,GCE,CSEを統合した試験制度が検討されている。なお,国際間の人口流動の増加に伴い,国際的に共通なバカロレアが協定で定められ,これを国際バカロレアと呼ぶ。
執筆者:古沢 常雄
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フランスにおいて,中等教育修了を証明するとともに,大学入学資格を認定するための国家試験。また資格そのもの。試験は毎年6月に全国一斉に実施される。合格者は基本的にどの大学にも入学できる(フランスでは,各大学による個別の入学者選抜試験は行われていない)。普通バカロレア(フランス)(1808年創設),技術バカロレア(フランス)(科学技術)バカロレア(1968年創設),職業バカロレア(フランス)(1985年創設)の3種類があり,それぞれ後期中等教育の普通科(リセ),技術科,職業科に対応している。3種類のバカロレアのいずれに合格しても大学に進学する権利が与えられるため,近年は技術バカロレア・職業バカロレア取得者も次第に大学へ進学するようになり,入学者の多様化が進んでいる。しかし同時に,大学生の学力低下の問題が生じている。他方で,バカロレアを取得できずに学校を離れる,無資格の生徒の就職難の問題もある。1980年代半ば以降,バカロレア試験合格率を同年齢層内の80%に引き上げることを国家的施策として推進し,2013年度には86.9%に達した。なお,フランスの高等教育機関には,バカロレアを持っていれば無試験で入学できる大学のほかに,各学校が実施する入学試験のあるグランド・ゼコール(grandes écoles)等がある。
著者: 齋藤千尋
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出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…総合大学universitéおよび技術短期大学Institut universitaire de technologie(IUT)とともにフランスの高等教育機関を構成する高等専門学校の総称で,〈大学校〉を意味する。工学,農学,獣医学,教育,古文書学,行政,政治,経済,経営,商業,美術,工芸,建築,音楽,演劇,映画,ジャーナリズム,税務,軍事,警察等々,多様な分野において高度の技術教育を授けることを通じ,それぞれの分野におけるエリートを養成することを目的に設立された。…
…たとえば,アメリカのコミュニティ・カレッジはその例の一つである。またフランス,西ドイツ(現ドイツ)では,日本の高等学校に相当するリセ,ギムナジウムの卒業試験に合格し,バカロレア,アビトゥーアを取得したものは,原則として,無試験で高等教育機関へ進学する方式がとられている。こうした,一定資格を有する者を無試験で入学を認める制度は,いいかえれば,入学定員という枠を定めていない点に,その特徴がある。…
※「バカロレア」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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