直接に国民の利用に供することを目的として,国,地方公共団体またはそれらによって設立された法人によって設置・運営される病院・図書館・市民会館・保育所等の施設。現代の行政は,国民に対し命令を下し,強制を加えるようなものもあるが,さらに,国民に対しさまざまな給付を行っている(給付行政)。そして,この中には,年金や補助金の給付のような金銭の給付もあるが,さらに,国民の利用に供するために物的な施設を設置することもある。他方,国民にとっても,さまざまな理由から,公共施設に対する需要はますます大きくなってきている。
公共施設の観念は,法律で用いられていることもある(例,都市計画法32条)。また地方自治法は,公共施設の語ではなく〈公の施設〉という語を用いて,これを,〈住民の福祉を増進する目的をもってその利用に供するための施設〉と定義しているが(244条1項),これは,理論上の観念としては,営造物の観念にとって代わろうとするものである。営造物が人的要素(例,学校における教師と生徒の関係)を重視するのに対し,公共施設は,物的要素に着目するものである。公共施設の観念と,公物・公企業の観念の相互の関係は必ずしも明確ではない。
公共施設の利用には一般利用(公営の公園の散策のように,許可などのなんらかの手続を必要としない利用)と,許可または契約による利用(例,市民会館等の利用)および特許利用(一般には認められない特別の利用。例,道路等における電柱・ガス管等の設置)がある。
公共施設の管理者は,正当な理由がなければその利用を拒んではならず,また,不当な差別的取扱いをしてはならない。許可または契約による利用の行われる施設で,多数の申請がある場合も,申請の順序にしたがいまたはくじ引きによるなど公正・平等に申込みに応じなければならない。公共施設の長期的独占的利用については特別の手続を要することがある(地方自治法244条の2-2項)。
公共施設の設置および改廃は,法律・条例に基づいて行われるなど,国会・地方議会の一定の統制の下にあることもあるが,通常,行政に大幅な裁量が認められている。しかし,公共施設の設置や廃止が長期的かつ計画的な見通しのもとで行われなければならないことは,今日では,法的な要請になっている(都市計画法11条参照)。
公共施設が存在する以上公正に国民の利用に供されねばならず,場合によっては具体的な利用権が設定されることもあるが,ただ,このような利用の可能性それ自体は権利でなく反射的利益であり,したがって,原則として,国民は,公共施設の廃止について裁判による救済を求めることはできない。ただ,それによって重大な不利益をこうむる者には,出訴資格の認められる余地がある。
執筆者:芝池 義一
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
…その理由は,営造物の意味が一定していないことにあるといわれているが,また,この観念が,われわれの日常生活上あまりになじみがうすいということもその理由とされるべきである。いずれにしても,行政法学上も,この観念に代えて,公共施設という観念が用いられるようになっている。むろん,〈営造物〉と〈公共施設〉の観念の範囲は同じではない。…
※「公共施設」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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