日本大百科全書(ニッポニカ) 「ブラック・ムスリム」の意味・わかりやすい解説
ブラック・ムスリム
ぶらっくむすりむ
Black Muslims
アメリカ合衆国の主として黒人からなる民族主義的色彩の濃い宗教団体。黒人回教徒ともいう。メッカの生まれといわれるワリ・D・ファードによって1930年に創設され、1934年以後エライジャ・ムハンマドElija Muhammad(1897―1975)指導のもとに、ブラック・ナショナリズムの代表的な組織へと発展した。白人と黒人との和解しがたい対立や黒人の自助が強調され、大都市の黒人ゲットーにはモスクも多数建立された。エライジャ・ムハンマドによって信者となったマルコム・エックスが活躍し、1960年代前半にかけて信者の数は増していった。しかし、マルコム・エックスはエライジャ・ムハンマドと決別、1965年に暗殺された。正式名称は「イスラム民族」Nation of Islamであったが、エライジャ・ムハンマドの後を継いだ息子のウォレス・D・ムハンマドにより「西洋におけるイスラム共同体」Islam Community in the Westと改称。また正統イスラム教との紐帯(ちゅうたい)が強調される一方で、会員資格や戒律は変更ないし緩和され、分離主義的傾向も弱まった。会員数は10万から15万人と推定されていた。
[大塚秀之]
ウォレス・D・ムハンマド(のちにワリス・D・ムハンマドと名のる)は、さらに教団の名称をアメリカ・ムスリム伝導American Muslim Missionと改めたが、1985年には世界の正統イスラム教(スンニー派)の一員になるため教団の解散を発表、のちにイスラム・アメリカ協会American Society of Muslimを設立した。
一方、ウォレス・D・ムハンマドの改革に反対する一派は、ルイス・ファラカンLouis Farrakhanをリーダーとして分離、名称は「イスラム民族(略称NOI)」のままで、従来どおりのエライジャ・ムハンマドの教えを守る活動を続けている。ファラカンは、1995年ワシントンにおいて、黒人男性による「100万人大行進」(警察発表で40万人が参加)を主催して、指導者としての力を誇示した。
[編集部]