日本大百科全書(ニッポニカ) 「ブラフマ・スートラ」の意味・わかりやすい解説
ブラフマ・スートラ
ぶらふますーとら
Brahma-sūtra
インド哲学ベーダーンタ学派の根本聖典。別名『ベーダーンタ・スートラ』あるいは『シャーリーラカ・スートラ』という。バーダラーヤナの作と伝えられるが、実際にはもっと後期の400~450年ころに現在ある形に編纂(へんさん)されたと考えられる。四編16章よりなり、約555のスートラ(経)が含まれている。その文体はきわめて簡潔で、各スートラは文章というより符号に近い。内容的には、『チャーンドーギヤ・ウパニシャッド』をはじめとする諸ウパニシャッドの体系的解釈と他学派批判から構成されている。他学派のなかでも、とくにサーンキヤ学派批判に力を注ぎ、同学派の説く純粋精神と原物質の二元論に対抗して、純粋精神であるブラフマン(梵(ぼん))のみが唯一の世界原因であるとし、一元論を展開している。また、救済手段に関しては、祭式の実行の重要性を説くミーマーンサー学派の説を尊重しながらも、解脱(げだつ)にはブラフマンの認識がもっとも必要であると、ウパニシャッドを根拠として主張している。本書の出現によって、ベーダーンタ学派は、ブラフマンの考究を最大の課題とする学派として明確な形を整えるに至った。本書は、同学派内において、ウパニシャッド、『バガバッド・ギーター』とともに「三種の学」とよばれ、最高に権威ある典拠とみなされた。そして、この学派内部の諸派の開祖をはじめ多くの学者によって注釈が書かれ、現存する注釈は約50種にも上る。
[島 岩]