日本大百科全書(ニッポニカ) 「バガバッド・ギーター」の意味・わかりやすい解説
バガバッド・ギーター
ばがばっどぎーたー
Bhagavad-gītā
インドの代表的な古典。紀元前1世紀ころの成立。もとバーガバタ派の聖典であったが、のちに叙事詩『マハーバーラタ』の一節に組み入れられ現在に至る。全18章700詩からなる。
[矢島道彦]
骨子
聖地クルクシェートラを舞台とするバラタ人の戦争がいままさに開始されようとするとき、王子アルジュナは骨肉の戦いに疑念を抱いて逡巡(しゅんじゅん)する。そこでビシュヌの化身(けしん)たる御者クリシュナは、人は行為の結果を顧慮せず、私心を捨て去って、ひたすら自己の本務をなすべきである。唯一神への献身的な愛(バクティbhakti)によってのみ人は救われると王子に説き示し、その疑念を取り払う。このバクティに基づく本務の遂行を説くところに本書の一大特徴があるが、同時にサーンキヤ、ヨーガ、ベーダーンタなど当時の諸哲学思想をも折衷・統合して、きわめて幅広い内容をもった宗教的哲学詩となっている。本書が古来ヒンドゥー教徒の「バイブル」として愛唱され親しまれてきたゆえんである。早くから各国語に翻訳・紹介されるなどして文学的評価も高く、広く世界に知られている。
[矢島道彦]
『辻直四郎著『バガヴァッド・ギーター』(1980・講談社)』