日本大百科全書(ニッポニカ) 「ヘカベ」の意味・わかりやすい解説
ヘカベ
へかべ
Hekabe
古代ギリシアの悲劇作家エウリピデスの悲劇。上演年代不詳。紀元前424年ころか。
トロヤ王プリアモスの妃ヘカベは、トロヤ陥落後、ギリシア軍将官オデュッセウスの戦利品となってほかのトロヤの女たちともどもギリシアへ赴く。その途中トラキアへ立ち寄ったとき、ギリシア軍はアキレウスの霊を慰めるため彼女の娘ポリクセネを生贄(いけにえ)に捧(ささ)げる。この不幸に加えて、トロヤ落城のおりひそかに逃がした末子ポリドロスの死が彼女を悲嘆の淵(ふち)に突き落とす。ポリドロスの死は、その亡命先のトラキア王ポリメストルの黄金に目がくらんでのしわざと知ったヘカベは、侍女たちの協力を得てポリメストルの目をつぶし、その2人の子供を殺して、息子の復讐(ふくしゅう)に成功する。
劇は、一見二つの事件を安易につないだだけの感があるが、いずれもトロヤ陥落後の事件であり、戦争の悲惨さ、ことに婦女子の身の悲惨さを語って余すところがない。
[丹下和彦]
『高津春繁訳『ヘカベ』(『ギリシア悲劇全集3』所収・1960・人文書院)』