ヘビ毒(読み)ヘビドク

化学辞典 第2版 「ヘビ毒」の解説

ヘビ毒
ヘビドク
snake venom

マムシ科(Crotalidae),クサリヘビ科(Viperidal),コブラ科(Elapidae),ウミヘビ科(Hydrophiae)などの毒ヘビ唾液腺から分泌される毒液は,毒素や酵素類など種々の生理活性物質を含んでおり,総称してヘビ毒という.一般には,マムシ科やクサリヘビ科のヘビ毒は出血,壊死浮腫を生じる局所性毒素や血液障害作用物質を含み,コブラ科やウミヘビ科のヘビ毒は末梢神経に作用して運動神経麻痺や知覚神経麻痺を起こす.ハブの出血性因子は,EDTAシステイン,およびハブ血清中の抗出血性因子により阻害される.血液凝固酵素には,トロンビン様酵素,X因子活性化酵素,V因子活性化酵素,プロトトロンビン活性化酵素が知られている.溶血因子には,間接溶血因子,直接溶血因子,および補体を必要とする因子(たとえば,コブラ毒因子)がある.神経毒は分子量1万以下のポリペプチドで,4~5個のジスルフィド結合をもつ.Ⅰ型(台湾コブラのコブラトキシン)とⅡ型(アマガサヘビのブンガロキシン)が知られている.ブラジキニンはヘビにかまれたときの痛みの原因物質である.そのほか,ホスホジエステラーゼ,エンドヌクレアーゼ,ペプチダーゼコラゲナーゼ,ヒアルロニダーゼ,カタラーゼなどの酵素類も含まれている.

出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ヘビ毒」の意味・わかりやすい解説

ヘビ毒
ヘビどく
snake poison; venom

蛇毒 (だどく) ともいう。毒ヘビ類の唾液腺から分泌される毒。毒の生理作用には,呼吸麻痺を起させるクラーレ様作用 (コブラ) ,神経毒作用 (ガラガラヘビ) ,毛細血管,小静脈の血管壁に作用して出血させ,出血性腫脹となる出血毒 (マムシ) ,赤血球を破壊する溶血毒 (マムシ) ,血液凝固毒 (アオハブ) と抗凝固毒 (タイワンハブ,タイワンコブラ) ,心臓障害,肺循環の閉塞や肝血管の収縮を起す毒 (マムシ) などがある。マムシ毒はクロタロトキシン,ガラガラヘビ毒はクロトキシンである。溶血毒はレシチンの不飽和脂肪酸を水解除去するレシチナーゼそのものでもあり,精製毒素は膜の溶解に利用される。毒は酸化に対して比較的強く,その場合は無毒化されても回復は可逆的。還元に対しては非常に弱く,システインによって容易に無毒化される。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「ヘビ毒」の意味・わかりやすい解説

ヘビ毒
へびどく

毒ヘビ

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

世界大百科事典(旧版)内のヘビ毒の言及

【毒ヘビ(毒蛇)】より

…とくにマムシ亜科の毒ヘビには赤外線に敏感なピット器官が備わり,夜間でも目標を確実に攻撃することができる。 ヘビ毒はおもにタンパク質と酵素からなり,種々の成分が含まれるが,主要成分は血管系統に作用し組織に出血させる出血毒hemorrhaginと,呼吸中枢などの神経系に作用して筋肉を弛緩させる神経毒neurotoxinで,クサリヘビ科では出血毒成分が多く含まれ,コブラ科では神経毒成分が含まれる率が高い。毒ヘビは種類によって各種成分の内容が異なるため,治療用の抗ヘビ毒血清は同一種の毒から精製されたものしか有効でない。…

※「ヘビ毒」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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