レシチン(読み)れしちん(英語表記)lecithin

翻訳|lecithin

日本大百科全書(ニッポニカ) 「レシチン」の意味・わかりやすい解説

レシチン
れしちん
lecithin

代表的なリン脂質の一種で、ホスファチジン酸のリン酸基にコリンエステル結合したもの。科学名はホスファチジルコリン。動植物中で量的にもっとも多いリン脂質で、脳、神経血球卵黄、豆胚乳(はいにゅう)などの組織に多く含まれるが、細菌にはほとんどみいだされない。

 哺乳(ほにゅう)動物ではレシチンは、リン脂質二重膜の内側よりも外側に多く分布し、両者あわせると全リン脂質の半分近くを占め、とくに肝臓や肺に多い。

 レシチンを構成する脂肪酸のうち主要なものは、パルミチン酸ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸アラキドン酸などである。通常、グリセリンの1位に飽和脂肪酸、2位に不飽和脂肪酸を含む構造を有し、生体膜や血清リポタンパク質の構成成分として重要である。2位のアラキドン酸はエイコサノイドプロスタグランジンなど)の前駆体である。大豆に含まれる1、2位ともリノール酸からなるレシチンは、血清コレステロール代謝改善効果を有する。肺胞膜中の1、2位ともパルミチン酸からなるレシチンは、界面活性能が強く、肺胞の虚脱(癒着)を防止する。一般に両性イオン界面活性をもつので、大豆から多量に得られるレシチンは、食品薬品の乳化剤に利用される。リン脂質(おもにレシチン)の摂取量は1日当り2グラム程度である。

 レシチンはホスホリパーゼ(フォスフォリパーゼ)とよぶ酵素レシチナーゼともいう)によってエステル結合を加水分解されるが、加水分解するエステル結合の位置によって酵素が分類されている。その酵素のうち蛇毒や細菌毒素に含まれるホスホリパーゼA2は、レシチンを加水分解してリゾレシチンを生ずるが、これには細胞を破壊したり赤血球を溶血する作用がある。

[菅野道廣・若木高善]

『松木康夫著『松木康夫の大豆レシチン健康法』(1988・ベスト出版、日東書院発売)』『渡辺隆夫著『食品開発と界面活性剤――その基礎と応用』(1990・光琳)』『江本綾子著『知られざるレシチン健康法』(1993・文化創作出版)』『北原文雄著『界面活性剤の話』(1997・東京化学同人)』『松木康夫監修『大豆レシチン――食べるだけで現代病がみるみるよくなる』(1998・日東書院)』『永山久夫著『縄文文化の復権――わたしたちは何を食べてきたのか』(1999・作陽学園出版部、れんが書房新社発売)』『糸川秀治監修、広海輝明著『秘薬 ウコンで肝臓革命』(1999・駿台曜曜社)』『帯津良一著『大豆の凄い薬効』(2000・宙出版)』『福生吉裕著『大豆レシチン物語り』(2000・日本医療企画)』『亀和田光男監修『食品素材の開発』(2001・シーエムシー)』


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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「レシチン」の意味・わかりやすい解説

レシチン
lecithin

ホスファチジルコリンともいう。脳,神経,血球,卵黄,ダイズなど,動植物界に広く分布するリン脂質。エーテル,アルコールに可溶,アセトンに難溶,水にはミセルをつくって溶け,両性イオンとして界面活性を示す。ホスホリパーゼによって加水分解されるが,加水分解される場所はホスホリパーゼの種類によって異なる。蛇毒のホスホリパーゼAは1分子の脂肪酸だけを加水分解して除き,溶血作用のあるリゾレシチンを生じる。レシチンは乳化作用が大きいので,食品,医薬の乳化剤として使用される。 (→ホスファチジン酸 )

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