日本大百科全書(ニッポニカ) 「ベンザイン」の意味・わかりやすい解説
ベンザイン
べんざいん
benzyne
ベンゼン系炭化水素分子からその芳香環上の隣り合う水素原子2個を取り除いた構造の反応中間体で、単離することはできないが、その存在はスペクトル的に確認されている。たとえば、クロロベンゼンにカリウムアミドの液体アンモニア中での作用、1-フルオロ-2-ブロモベンゼンに有機リチウム化合物の作用、2-アミノベンゼンカルボン酸(アントラニル酸)のジアゾ化などにより芳香環上の隣り合う2個の水素原子が奪われたo(オルト)-ベンザインが生成する。生成したo-ベンザインはアセトンのフェニル化やフランへの環状付加による環状化合物の生成などを行う。
なお、ベンゼン環から隣り合わない(メタ位あるいはパラ位)2個の水素原子を取り除いた構造の中間体はそれぞれm(メタ)-ベンザインあるいはp(パラ)-ベンザインとよばれる。
o-ベンザインの気相での直接観測により、その三重結合は124.4ピコメートルの長さをもち、アセチレンそのものの結合の120ピコメートルよりわずかに長い。ほかの炭素間の結合間隔はベンゼンそのものの炭素間の結合間隔の140ピコメートルの前後であり、ベンゼンの分子に比べて三重結合の部分が短くなっているものの、あまり大きくは変形していない。
[徳丸克己]