化学辞典 第2版 「ペルオキソリン酸」の解説
ペルオキソリン酸(塩)
ペルオキソリンサンエン
peroxophosphoric acid(peroxophosphate)
ペルオキソ一リン酸(塩)とペルオキソ二リン酸(塩)とがある.そのほか,リン酸塩の過酸化水素付加物も,便宜上この名称でよぶことがある.【Ⅰ】ペルオキソ一リン酸(塩)(peroxomonophosphoric acid(peroxomonophosphate)):
酸;H3PO5(113.99).P2O5(またはP2O5 + H3PO4)とH2O2との反応,H3PO4の電解酸化などで得られる.(HO)2P(=O)-OOHと考えられる.不安定で,水溶液のみしか得られていない.希薄水溶液でも室温で徐々に分解してH3PO4とH2O2になる.酸性にすると速く壊れる.K1 8×10-2,K2 3×10-6,K3 2×10-13(25 ℃).強い酸化力がある(KI→ I2).[CAS 13598-52-2]
塩;H3PO5水溶液の中和で得られるほか,Ag+,Fe3+ などで各金属の塩を沈殿させると得られる.しかし,これらの塩はいずれも不安定で,分解して O2 を発生してリン酸塩となる.【Ⅱ】ペルオキソ二リン酸(塩)(peroxodiphosphoric acid(peroxodiphosphate)):
酸;H4P2O8(193.97).H2O2を含むH4P2O7水溶液の電解酸化など,水溶液でのみ得られている.塩からの類推で(HO)2P(=O)-O-O-P(OH)2と考えられる.酸として,K1 約2,K2 3×10-1,K3 6.6×10-6,K4 7.1×10-8 程度である.水溶液は徐々に加水分解する.強酸性なら,H3PO5を生じる.[CAS 20816-74-5]
塩;K4P2O8(346.34)は,KH2PO4を含む水溶液の電解酸化で得られる.無色の斜方晶系結晶で,[O3P-O-O-PO3]4- を含むと考えられる.室温では安定であるが,387 ℃ で分解して O2 を発生して,二リン酸塩になる.水に易溶.水溶液はアルカリ性を示す.加水分解は酸性では速く,アルカリ性では遅い(K2PO5とオルトリン酸塩になる).ピロリン酸のようにアルカリ陽イオンと錯イオンをつくる.強い酸化剤.ほかの塩(たとえば,Ba,Zn,Pbなど)は,K塩水溶液と各金属塩との複分解で沈殿として得られる.【Ⅲ】リン酸塩の過酸化水素付加物(peroxyhydrate of phosphate):M3PO4・nH2O2・mH2Oなどアルカリ性または中性のリン酸塩(オルトリン酸,二リン酸,三リン酸などのいずれの塩にもみられる)で,水和物の水を過酸化水素で,一部または全部を置換したような形式の化合物の一群がある.無水物にH2O2を作用させると得られる.たとえば,Na3PO4-H2O2-H2O系では,たとえば,Na3PO4・8H2O2・2H2Oのほかに,Na3PO4・4.5H2O2(融点65 ℃,分解温度120 ℃)や,Na3PO4・H2O2(分解温度70 ℃)などがある.また,二リン酸塩ではNa4P2O7・3H2O2など,三リン酸塩ではNa5P3O10・H2O2・5H2O,トリメタリン酸塩では,Na3P3O9・H2O2などがある.これらの付加物は,結晶中の結晶水と同様に,必ずしも酸の中心原子に配位しているのではなく,酸イオンのOに水素結合しただけという場合もある.普通は,水に溶かすとH2O2を分離する.構造が確認できる場合にはペルオキソ酸(塩)と区別ができるが,これらも便宜上ペルオキソ酸(塩)と通称されている.
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報