ホオダレムクドリ(英語表記)wattled bird

改訂新版 世界大百科事典 「ホオダレムクドリ」の意味・わかりやすい解説

ホオダレムクドリ (頰垂椋鳥)
wattled bird

スズメ目ホオダレムクドリ科Collaeidaeの鳥の総称。またはそのうちの1種を指す。この科はニュージーランド特産で,3種からなり,そのうちの1種は絶滅した。3種の共通の特徴としてくちばしの基部によく目だつ小型の肉垂がある。このためホオダレムクドリと命名されているが,ムクドリ科の鳥にとくに近縁の鳥ではない。森林に生息しているが飛行力はかなり退行している。

 ハシブトホオダレムクドリCallaeas cinereaマオリ族呼称kokako)は全長約34cm。頭部から背,胸は灰色,他の部分はオリーブ色である。黒いくちばしは太く短く,がっちりしている。肉垂は青い。非常に音楽的な歌をさえずるので有名である。

 セアカホオダレムクドリCreadion carunculatus(マオリ族の呼称はtieke)は全長約25cm。背,腰,雨覆の一部は赤褐色,体の他の部分は黒い。黒いくちばしは細長く,少し下に曲がっている。肉垂は黄色ないし褐色。この種のニュージーランド南島亜種では,1歳の幼鳥は全体に褐色である。しかし,ニュージーランド北島の亜種では,1歳幼鳥は巣だつときから成鳥とほぼ同じ模様の羽毛を身につけている。亜種間のこのような相違は他に例がない。

 ホオダレムクドリHeteralocha acutirostris(マオリ族の呼称はhuia)は全長約50cm。一名フィアという。全身ほぼ黒色で,尾羽の先端部に幅の広い白帯がある。肉垂は黄色。この種は雌雄によってくちばしの形態が著しく異なっている特異な鳥である。雌雄ともくちばしは白黄色で,雄のくちばしは細長く,ほとんどまっすぐで,先がとがっている。一方,雌のくちばしは雄のくちばしよりかなり長く,しかも,下にかなり湾曲している。この種は1907年に採集された個体を最後に絶滅した。絶滅の原因の一つは,生息地の森林が破壊されたこと,他の原因はマオリ族やヨーロッパ人による乱獲である。しかしこの種の標本は世界中に約70点残されているにすぎない。採食生態はよく調査されていないが,おそらく,短くて鋭いくちばしをもっている雄は,地表や樹皮上などでとりやすい比較的大型の食物をとり,一方,細長く湾曲しているくちばしをもつ雌は朽木の内部,樹皮下の奥などに隠れている小型の食物をおもにとっていたと想像される。あるいは,雌雄で協力してさまざまな食物をうまくさがし出して生活していたのかもしれない。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「ホオダレムクドリ」の意味・わかりやすい解説

ホオダレムクドリ
ほおだれむくどり / 頬垂椋鳥
wattlebird

広義には鳥綱スズメ目ホオダレムクドリ科に属する鳥の総称で、狭義にはそのうちの1種をさす。この科Callaeidaeはニュージーランド特産の3属3種よりなり、どの種も嘴(くちばし)の基部に肉垂れがある。森林にすみ、枝から枝へと活発に跳ねて移動し、ときには地上を跳ね歩いて、昆虫や木の実を食べる。枝や岩の上に、小枝や木の繊維を用いて皿形の巣をつくる。

 種のホオダレムクドリHeteralocha acutirostrisはフイアともよばれる。全長約50センチメートル、体は黒くて青緑色の光沢があり、肉垂れは橙(だいだい)色、尾は長めで先が白い。嘴の形は、雄はまっすぐで、雌は下に曲がって先が細くなっている。雄がこのじょうぶな嘴で朽ち木をつついて穴をあけると、雌が曲がった嘴で虫を引き出す。このように雌雄が異なった形の嘴をもち、採餌(さいじ)の際に共同作業をするという習性は、鳥類のなかで唯一の例である。尾羽を装飾用としてマオリ人が用いたために多くが捕獲され、1907年以来確認されていないので、絶滅したと考えられている。アオホオダレムクドリCallaeas cinereaは全長約45センチメートル、体は青灰色で、額から眼先(めさき)は黒く、嘴は太い。肉垂れは青色である。ニュージーランドにいる鳥のなかで、いちばん美しいさえずりをしているといわれる。おもに植物質の餌(えさ)をとる。オレンジホオダレムクドリCreadion carunculatusは全長25センチメートル、体は黒く、背はオレンジ色である。嘴は黒くて細く、肉垂れは小さくて黄色。南島と北島のそれぞれ小さな島に、少数分布しているだけである。

[高野伸二]


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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ホオダレムクドリ」の意味・わかりやすい解説

ホオダレムクドリ
Heteralocha acutirostris; huia

スズメ目ホオダレムクドリ科。絶滅種。雌雄での形態や長さが著しく異なる。雌は全長 48cmで,嘴は長さが約 10cmもあり,細長くて下に湾曲する。雄は全長 45cmで,長さ約 6cmの嘴はがっしりしていて比較的まっすぐで先がとがる。雌雄で嘴の形が異なるのは,食べ物をとる場所や方法を変えて(雌は朽木などの内部の深い所を探る)競争を避けていたからだと考えられている。雌雄とも全身黒色で,尾羽の先端だけが白い。頬に裸出した橙色の肉垂があり,ホオダレムクドリと名づけられたが,ムクドリ類と類縁関係が近いわけではない。ニュージーランド北島(ノース島)の森林にすんでいたが,森林伐採と乱獲のため 20世紀の初めに絶滅した。ホオダレムクドリ科はニュージーランド固有で,3属 5種からなるが,本種のほかにハシブトホオダレムクドリ Callaeas cinereus が絶滅した。現生の 3種とも飛翔力は弱く,森林に単独かつがいですみ,昆虫のほか果実,葉などを食べる。巣は森の中の低木のまたや樹洞につくり,2~3個の卵を産む。

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