改訂新版 世界大百科事典 「ムクドリ」の意味・わかりやすい解説
ムクドリ (椋鳥)
スズメ目ムクドリ科の鳥の1種,またはムクドリ科の鳥の総称。ムクドリSturnus cineraceus(英名grey starling)は全長約24cm。体は灰褐色で,頭頸(とうけい)部と胸は黒いが,頭上や顔には白い羽毛が混じっている。くちばしと脚は橙黄色。幼鳥は褐色に富み,とくに頭頸部と胸が成鳥のように黒くなく,灰褐色である。中国北部,シベリア南部,沿海州,サハリン,日本などで繁殖し,大陸のものは冬季中国南部,台湾,海南島などに渡る。日本では留鳥か漂鳥で,全国各地の都市,村落,畑や乾いた水田などでふつうに見かけるが,九州以南では少ない。食性は雑食に近く,夏季は昆虫類と幼虫を主食とし,秋冬季には種子や穀物も食べ,また1年を通して熟した果実や漿果(しようか)を好んでついばんでいる。繁殖期にはつがい単位でくらしていて,はっきりした群れはつくらないが,秋冬季は群れで生活していることが多い。巣は天然の樹洞,人家の戸袋や屋根裏,工場の建物の隙間などにつくり,巣箱にもよく入る。卵は光沢のある緑青色で,1腹ふつう5~6個。抱卵期間は約10日。雌雄ともに抱卵,育雛(いくすう)をする。元来は平地に生息する鳥だが,山地部の開発に伴って最近は山地帯にも侵入している。ジャー,ジャーと濁った声で鳴く。
ムクドリ科Sturnidaeは約26種113種からなり,世界の温帯から熱帯に広く分布する。多くの種は留鳥であるが,高緯度地方のものは渡りをする。全長17~40cm。羽色ははでではないが,光沢のある青色,紫色,緑色,黒色を主色とした,一見美しいものが少なくない。一部の種は灰色や褐色で下面が白っぽく,全身ほとんど白色の種もある。一般に,くちばしはじょうぶで,まっすぐであり,脚もじょうぶで,樹上生活にも地上生活にも適応している。この科の鳥は,深いジャングルよりは開けた林,林縁や二次林,農耕地,人家近くや公園などに好んですみ,昆虫類,小動物,種子や穀物,それに果実と漿果を食べている。このため,ときには農作物や果樹園に大きな被害を与えることもある。巣は,数種の例外を除いて,みな樹洞,建物の隙間,土手の穴などにつくり,卵は青色か白色,1腹ふつう3~6個。抱卵は雌雄でするものと雌だけでするものとがある。繁殖期以外は群れをつくり,種によっては集団営巣する。さえずりはよく発達していないが,さまざまな声をもち,一部の種(とくにキュウカンチョウ)は人語をよくまねる。
種類
代表的な属はムクドリ属Sturnus(16種)とハッカチョウ属Acridotheres(ハッカチョウなど6種)で,前者はユーラシア大陸とマレー諸島に,後者は南アジアに広く分布する。日本には,ムクドリのほかに,ムクドリ属のコムクドリS.philippensisが夏鳥として渡来し,本州中部以北で繁殖する。また,カラムクドリS.sinensisとシベリアムクドリS.sturninusが迷鳥として渡来する。カラスモドキ属Aplonisは全身緑色ないし褐色の小型ムクドリで,多くのものは羽毛に光沢がある。この属は約24種に分類され,東南アジアからポリネシアに広く分布している。アフリカに分布するマキエテリムク属Lamprotornis(16種),チャバネテリムク属Onycognathus(10種),ゴシキテリムク属Spreo(6種)も金属光沢に富んだ緑色や紫青色の羽毛をもっている。いちばん特殊化したムクドリは,アフリカに分布するウシツツキ属Buphagus(英名oxpecker)の2種で,くちばしは左右に平たく,あしゆびのつめはよく発達し,尾羽はキツツキ類の尾のように固い。つねに小群でサイやシマウマのような大型草食獣,スイギュウ,ウシなどの背の上にとまっていて,獣につくダニを主食としている。カラスモドキ属の2種と,ロドリゲス島のNecropsar leguatiおよびレユニオン島のFregilupus variusは絶滅した。
執筆者:森岡 弘之
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報