改訂新版 世界大百科事典 「ホームズ子」の意味・わかりやすい解説
ホームズ[子]
Oliver Wendell Holmes
生没年:1841-1935
アメリカの法律家。マサチューセッツ州生れ。同名の医学者,詩人の子。ハーバード大学のロー・スクール卒業。同大学教授(1882)を短期間務めた後,マサチューセッツ州最高裁判所裁判官(1882-99),同首席裁判官(1899-1902),合衆国最高裁判所裁判官(1902-32)。合衆国最高裁判所裁判官としては,経済問題・社会問題に関する立法については司法部は立法部の判断を尊重すべきであるとし,多数意見が自然法的な立場から経済立法・社会立法の多くをデュー・プロセス条項(デュー・プロセス・オブ・ロー)違反として違憲としたことに反対する意見を数多く発表して,〈偉大な少数意見者The Great Dissenter〉とよばれた。他方,言論・出版の自由については,(立法部がそれを防止する権限をもつといえるような性質の)害悪を生ぜしめる〈明白かつ現在の危険clear and present danger〉のあるときにのみ,その規制が許されるという立場を打ち出した。
法学の面では,19世紀後半におけるアメリカの法律家のものの考え方の背後にあった自然法思想と歴史法学と分析法学の3者の奇妙な結合を攻撃し,法はある目的を実現するための手段として評価すべきこと,法が何であるかを認識しようとする際には,道徳的なアプローチを捨て,裁判所がその問題にどういう結論を与えるかの予測に徹すべきであることを提唱した。20世紀に入ってからのアメリカ法学の二つの顕著な流れであるプラグマティズム法学とリアリズム法学は,それぞれホームズの思想の一面を継承している。主著に《コモン・ロー》(1881)がある。
執筆者:田中 英夫
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報