マイクロストリップアンテナ(読み)まいくろすとりっぷあんてな

日本大百科全書(ニッポニカ) の解説

マイクロストリップアンテナ
まいくろすとりっぷあんてな

プリント配線基板上に構成したアンテナマイクロストリップ線路から派生したアンテナとみなすことができ「マイクロストリップアンテナ」の名称がつけられた。アンテナ上面がつぎはぎ用の布切れであるパッチに見えることから「パッチアンテナ」ともよばれる。プリント配線基板はプラス側となる面の細い導体の帯(これをマイクロストリップまたは単にストリップとよび、マイクロストリップを用いた主として高周波数帯で用いられる伝送線路をマイクロストリップ線路という)とマイナス側面の導体板(アースするための地板またはグランド板という)およびこれらに挟まれた誘電体からなる。マイクロストリップアンテナは、このプラス側の細い導体の帯を矩形(くけい)のまま、または円形に大きくし、電波が効率よく空間に放射されるようにくふうされたアンテナである。プラス側の導体板(パッチ)とマイナス側の導体板(地板)で平行平板共振器が構成され、矩形パッチの場合その一辺が約2分の1波長のとき共振状態となり、共振器の電磁界が強くなる。電界は導体板に垂直であるが、プラス導体の端部では彎曲(わんきょく)し外部にはみ出すことになりその一部が空間に放射される。アンテナの励振(無線回路との接続)は、ストリップ線路を通じて行う場合、地板の下から同軸線路を通じ、同軸の心線をプラス側導体板に接続し、外導体を地板に接続する場合、さらにスロットを通してプラス側導体板を励振する場合や電磁結合により励振する場合もある。

 線条アンテナが19世紀にすでに存在したのに対し、このアンテナは1970年代に入って、本格的な研究、応用開発が始まった比較的新しいアンテナである。

 プリント配線基板上に構成されたアンテナであることから、平面で薄いという構造上の特徴を有している。またマイクロ波の回路が基板上に構成されることから回路との接続が容易という特徴もある。この特徴を生かし、ロケットや航空機などの高速の飛翔(ひしょう)体の側面に搭載するアンテナとして使用されたり、衛星搭載アンテナの1次放射器、フェーズドアレーアンテナの放射素子、衛星放送受信アンテナなどにも使用されている。なお、類似の構造のアンテナとして、線条アンテナをプリント配線基板を使って構成した「プリントアンテナ」がある。このアンテナが構造上マイクロストリップアンテナと異なる点は、地板がないことで、動作原理も異なる。ただしマイクロストリップアンテナも含め「プリントアンテナ」とよぶこともある。

 マイクロストリップアンテナは原理が発明された当初、構造上の利点があるのに対し、動作帯域が狭いという欠点があった。しかしその後、プラス側導体の上に、近接してこれよりやや大きい導体板を配置する、地板から突き出した逆L形のワイヤでプラス側導体を電磁的に励振するなど、構造的なくふうにより、帯域の拡大や複数周波数で動作させるなど各種無線通信にも応用されるように性能向上が図られている。さらにパッチ形状や給電点位置の最適化設計により一点給電で円偏波(えんへんぱ)(電界の向きを一定に保って進む電波を直線偏波の電波とよぶのに対し、円偏波の電波とは、電界の向きが伝搬方向に垂直な面内で円を描くように回転しながら進む電波のこと)を放射できるという利点も有しており、円偏波を使用する移動体衛星通信システムで用いられている。線条のダイポールアンテナをプリント配線基板で実現したアンテナは「プリントダイポールアンテナ」とよばれ、携帯電話サービスの普及に伴い、基地局アンテナの素子として広く使用されている。

[鹿子嶋憲一]

『羽石操・平沢一紘・鈴木康夫著『小形・平面アンテナ』(1996・電子情報通信学会)』


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