改訂新版 世界大百科事典 の解説
マクスウェル=ボルツマン分布 (マクスウェルボルツマンぶんぷ)
Maxwell-Boltzmann's distribution
古典力学に従う理想気体において,熱平衡状態での分子の各状態の確率分布をいう。N個の粒子からなる系の熱平衡状態において,速度v=(vx,vy,vz)の各成分vα(α=x,y,z)の値が,vαとvα+dvαの間にあるような粒子の数は,dvαがすべて小さいときn(v)dvxdvydvzで与えられる。このn(v)を速度分布関数という。古典統計力学(ボルツマン統計)では,系が絶対温度Tの熱平衡にあるとき,速度分布関数は,
で与えられる。ただし,は粒子の運動エネルギーであり,mは粒子の質量,kはボルツマン定数である。(1)の速度分布をマクスウェルの速度分布則という。これは最初J.C.マクスウェルによって与えられたものであり,のち,L.ボルツマンによって一般化された。量子統計力学では(1)に対応するものは,粒子間の相互作用を無視したときのフェルミ粒子系のフェルミ=ディラック分布やボース粒子系のボース=アインシュタイン分布である。これらの分布関数はいずれも古典極限(2πmkT/(N/V)2/3≫h2)ではe⁻ε/kt・eμ/ktとなり,これはマクスウェル=ボルツマン分布にほかならないことがわかる。ここで,hはプランク定数,Vは粒子を入れた容器の体積,μは化学ポテンシャルである。またフェルミ=ディラック分布やボース=アインシュタイン分布は1粒子状態への分布で,定義からすると,速度分布関数に(h3/m3V)を乗じたものに対応していることに注意する。また,に注意すると,古典極限におけるマクスウェル=ボルツマン分布への移行が明らかになろう。
速度分布(1)から直ちに得られる結論の一つは運動エネルギーの等分配則である。温度Tの熱平衡状態では,質量の大きな粒子も小さな粒子も,また粒子間相互作用のいかんによらず,各粒子の運動エネルギーの平均値は等しく(3/2)kTである。このようなエネルギー等分配の法則は量子統計では成り立たない。
執筆者:伊豆山 健夫
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報