日本大百科全書(ニッポニカ) 「マレアビリティー」の意味・わかりやすい解説
マレアビリティー
まれあびりてぃー
malleability
一般には可塑性と訳されている。生産要素、とりわけ資本ストックに関連して議論されるが、生産要素の「マレアビリティー」とは、必要に応じてその生産要素をある用途から他の別な用途へ転用することが可能であり、しかも、そのためになんらの費用を要することなく、また時間的経過も要せず瞬時になされうる、ということを意味している。たとえば、これまでA産業に配分されていた人的・物的生産要素は、もし市場相対価格の変動などによってその産業の収益条件が悪化したならば、他の逆に収益条件が有利になったB産業へ即時に無費用で転用できるということである。しかし、このようなマレアビリティーの仮定の非現実性は明白である。構造不況業種の例からもわかるように、産業調整や生産要素の配置転換は長い期間を要し、しかもそのための費用は無視できない大きさである。また技術進歩が存在する世界を考えると、現存の資本ストックはある特定の生産技術を体化しているわけで、たとえ有利な新技術が開発されたとしても、ただちにその資本ストックを新技術を体化した資本ストックへ改鋳することはほとんど不可能である。この場合に、ビンテージ・モデルvintage model(資本財を製作年次で区別したモデル)への発展は一つの現実接近への方向である。
このようにマレアビリティーの非現実性は否定できないが、各種の調整を行いうる長期を考えるならば、マレアビリティーの考え方はやはり有用であろう。
[羽鳥 茂]