改訂新版 世界大百科事典 「産業調整」の意味・わかりやすい解説
産業調整 (さんぎょうちょうせい)
industrial adjustment
経済成長という動態的な過程のもとで各国の比較優位産業はつねに変化している。自由貿易が円滑に行われるためには,比較優位を失い,比較劣位におちいった産業の労働者が他産業に移ったり,その産業の生産設備の縮小が行われる産業調整が必要である。ところが近年の先進諸国では,石油危機後の低成長下で労働者が新しい雇用機会を求めにくいこと,資本設備が大規模で一貫生産体制をとっている産業で操業率を低くしたり設備廃棄にふみ切りにくいこと等から,産業調整を拒み比較劣位産業の温存をはかる傾向がある。ことに輸入品の急増によっておびやかされる産業が特定の地域の生産活動や雇用水準の維持にとって大切な産業である場合には,調整過程は地域経済に深刻な打撃を与える。そこで,このような調整過程での困難を減らし,進展を促すための産業調整政策が必要となる。産業調整政策には,経済情勢の急激な変化を緩和したり地域経済の負担を軽減する目的の防御的調整政策と,新しい産業分野を開発する目的の積極的調整政策がある。
日本でも石油危機後,エネルギー価格の高騰で比較優位を失ったアルミ製錬等の資源加工業,新興工業国からの追上げをうける繊維産業,世界的な需要停滞に悩む造船業等で,産業調整の必要性が高まった。特定不況産業安定臨時措置法(いわゆる構造不況法)(1978公布)は,平電炉,アルミ製錬,合成繊維等の産業で生じた大幅な需給不均衡を是正するため,過剰設備の処理等に必要な調整コストを政府が負担しようというものである。また特定不況地域中小企業対策臨時措置法(1978公布)は,特定地域への影響を少なくし,社会的な摩擦を回避しようとするものである。このような政策の施行はあくまでも,変化への対応を容易にするための一時的なものにとどめるべきである。そして調整政策の基本は,新分野への業種転換,新製品の開発奨励,新技術の導入促進といった積極的産業調整を推し進めることにある。
執筆者:佐々波 楊子
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報