日本大百科全書(ニッポニカ) 「マンジュウイシモチ」の意味・わかりやすい解説
マンジュウイシモチ
まんじゅういしもち / 饅頭石持
pajama cardinalfish
[学] Sphaeramia nematoptera
硬骨魚綱スズキ目テンジクダイ科コミナトテンジクダイ亜科マンジュウイシモチ族に属する海水魚。日本では奄美(あまみ)大島、石垣島、西表島(いりおもてじま)から知られているが、台湾南部、ジャワ島、フィジー、トンガ、グレート・バリア・リーフなど西太平洋と東インド洋に広く分布する。体は著しく高く、側扁(そくへん)し、体高は体長の約53%。頭は大きく、体長の約40%。目は大きく、吻長(ふんちょう)の約2倍。口は普通大で、上顎(じょうがく)の後端は目の中央部下付近に達する。上主上顎骨はない。上下両顎、鋤骨(じょこつ)(頭蓋(とうがい)床の最前端にある骨)に絨毛(じゅうもう)状の小さい歯があるが、犬歯はない。前鰓蓋骨(ぜんさいがいこつ)の隆起線は円滑で、縁辺が鋸歯(きょし)状。鰓耙(さいは)は上枝に7本、下枝に27本。頭部と体は櫛鱗(しつりん)で覆われ、側線有孔鱗数は26~27枚。背びれは2基で、胸びれ基底上方から始まり、第1背びれは7棘(きょく)、第2背びれは1棘9軟条。第1背びれの第3棘はもっとも長く、第2背びれの第2軟条は糸状に伸長する。臀(しり)びれは第2背びれ起部下方から始まり、2棘9軟条。胸びれは13~14軟条。腹びれは胸びれ起部より前方から始まる。尾びれの後縁は湾入する。尾びれの上下鰭条(きじょう)の前に棘状の鰭条がよく発達する。背びれ、臀びれ、腹びれは著しく大きい。体の中央部に第1背びれ基底部から腹方へ幅広い黒色の横帯が走り、それより前部は黄緑色で、後部には赤橙(せきとう)色の小円斑(えんはん)が散らばる。胸びれを除く各ひれの前縁は橙(だいだい)色で縁どられる。虹彩(こうさい)は赤い。内湾や礁湖のアミメハマサンゴやユビエダハママサンゴなどの枝の間に群生し、夜に分散して底近くでプランクトンを食べる。産卵期には雌雄が対(つい)をなして産卵し、雄が卵を口内保育する。特徴的な色彩と形態から水族館で観賞魚として展示される。
マンジュウイシモチ族は、魚類学者の馬渕浩司(まぶちこうじ)(1971― )らによる2014年(平成26)のDNAの分析結果から、本種が属するマンジュウイシモチ属を含む6属(カクレテンジクダイ属、ツマグロイシモチ属、ナミダテンジクダイ属など)に対して創設された。日本から知られているマンジュウイシモチ属のもう1種のホソスジマンジュウイシモチS. orbicularisは、体側中央部の黒色帯の幅が狭く、瞳孔(どうこう)大であることなどで本種と区別できる。イシモチは高知県、和歌山県などで使われているこの類の呼称に由来する。
[尼岡邦夫 2023年4月20日]