改訂新版 世界大百科事典 「マーヤー」の意味・わかりやすい解説
マーヤー
Māyā[サンスクリツト]
〈幻影〉を意味する語でインド哲学の術語の一つ。早くも《リグ・ベーダ》において用いられ,おもに〈神の驚異的・神秘的創造力〉を意味した。この用法はウパニシャッドに継承されているが,〈宇宙的幻影〉の意味にも用いられている。根本物質プラクリティの同義語の場合もある。仏教においては心作用の一つとされ,〈欺瞞〉〈裏切り〉を意味し,また〈人を眩惑する力〉〈幻〉を意味し,事物に実体がないことにたとえられる。仏教の影響を強く受けたベーダーンタ学派のガウダパーダの場合には,アートマン,心,あるいは思考のもつ〈神秘的な力〉〈魔術的幻影〉を意味する。不二一元論学派の開祖シャンカラの場合には,〈詐欺〉〈神の神秘的な,人を眩(くら)ます幻力〉〈魔術〉などを意味するにすぎないが,後継者たちの場合にはしばしば無明の同義語で,宇宙の質料因と考えられている。その哲学はマーヤー論といわれ,マーヤーは有とも非有とも定義できないとされる。
執筆者:前田 専学
マーヤー
Māyā
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報