日本大百科全書(ニッポニカ) 「ミサイル艇」の意味・わかりやすい解説
ミサイル艇
みさいるてい
guided missile boat
高速戦闘艇fast attack craft(FAC)の一種で、対艦ミサイル(SSM)を搭載し基準排水量500トン以下、全長が30~70メートル程度、速力おおむね30ノット以上で、水上艦襲撃能力を備えた小型高速水上艦艇。射程の長いSSMを主兵装とするため、かつての魚雷艇のような避退時のスプリント力(短時間限定高速力)よりも巡航速力と航続力が重視されている。1959~60年ソ連(現ロシア)で完成のコマール級Komar Class(70トン)とオーサⅠ級Osa Ⅰ Class(165トン)が最初のもの。1967年第三次中東戦争でアラブ連合(現エジプト)の艇(コマール級)が、イスラエル駆逐艦エイラートElathを撃沈して、ミサイル艇の有効性が認識され、多くの海軍が建造、保有するようになり、攻撃力のわりに安価なため中小国でとくに重用されている。搭載武器の射撃管制装置、戦闘情報処理装置、通信装置、電子戦装置等の装備・強化や、機動力および耐波性能の向上、対艦ミサイルの性能向上を含めた兵装強化、ステルス技術の導入により、ミサイル艇は逐次大型化し、現在では基地依存度が高く近海面で使用する150トン前後の艇と、基地を離れて洋上で作戦しうる、高速航続力に優れた300~500トン程度の艇に大別され、ほかに高速力と波浪中の行動能力を重視し、水中翼艇方式のものもつくられている。ノルウェーは、この艦種として初めて表面効果船SES(surface effect ship)型船体を採用し、速力44ノット、徹底した対レーダー・ステルス対策を施したシェル級Skjøld Classを1999年に完成させている。日本の海上自衛隊においても、ステルス性を考慮した高速ミサイル艇「はやぶさ」型が就役している。国によっては、汎用の小型水上戦闘艦艇として艤装(ぎそう)、あるいは兵装転換機能をもたせて、コルベットに近い任務の艇にしているものもある。
[阿部安雄]
『堀元美・江畑謙介著『新・現代の軍艦』(1987・原書房)』▽『『世界の艦船第502号 特集 現代の高速戦闘艇』(1995・海人社)』▽『『世界の艦船第560号 特集 高速戦闘艇の新動向』(1999・海人社)』▽『『世界の艦船第597号 特集 ミサイル艇』(2002・海人社)』▽『Antony PrestonStrike Craft(1982, Bison Books)』▽『Christopher ChantSmall Craft Navies(1992, Arms & Armour Press)』▽『Stephen SaundersJane's Fighting Ships 2010-2011(2010, Jane's Information Group)』