水上艦船に対する魚雷攻撃を主任務とした高速艇。軍艦の一種。往時の水雷艇と同任務だが、船型など技術的にはまったく別種のもので、小型で軽快、しかもはるかに高速で航洋性がある。第一次世界大戦で、イギリスが滑走型船体の小型モーターボートに魚雷を積み、コースタル・モーターボート(CMB)と称して使用したのが最初。ほぼ同時期に、イタリアは段付高速型船体のマス(MAS)、ドイツは丸型船体のLMボートを採用した。CMBによるクロンシュタット襲撃、MASによるオーストリアのド(弩)級戦艦撃沈などの戦果をあげたが、波の高い海面では使用しえなかった。両大戦間に、船型改善による凌波(りょうは)性向上、主機改良による高速化が図られ、イギリスはV型船体のモーター・トーピドー・ボート(MTB)、イタリアは改良型MAS、ドイツは丸型船体のシュネル・ボート(Sボート)、アメリカはMTBに似たパトロールクラフト・トーピドー(PT艇)、日本は魚雷艇を多数建造した。
第二次世界大戦では、枢軸国、連合国ともに数百隻を建造し、雷撃、局地護衛、対潜、哨戒(しょうかい)、強行機雷敷設、掃海、救助、輸送、連絡などの作戦に使われた。また魚雷にかえて砲兵装のみ装備したモーター・ガン・ボート(MGB)=砲艇もつくられた。第二次世界大戦後は、短時間で兵装を積み換えて魚雷艇、砲艇、駆潜艇、敷設艇などに変更しうる艇として建造されるものが多く、これらは高速哨戒艇と称されるようになった。また水中翼艇タイプのものも建造されている。
現在は、基準排水量500トン以下、速力30ノット以上の砲艇、哨戒艇、駆潜艇、ミサイル艇などとともに高速戦闘艇fast attack craft(FAC)と総称され、魚雷を主兵装とするものはFAC‐torpedoと区分されているが、魚雷搭載艇は1970年代末ごろからほとんど建造されなくなり、対艦ミサイル(SSM)搭載のミサイル艇がその後継者になっている。
[阿部安雄]
『堀元美・江畑謙介著『新・現代の軍艦』(1987・原書房)』▽『『世界の艦船第502号 特集 現代の高速戦闘艇』(1995・海人社)』▽『石橋孝夫著『艦艇学入門――軍艦のルーツ徹底研究』(2000・光人社)』▽『Antony PrestonStrike Craft(1982, Bison Books)』▽『Christopher ChantSmall Craft Navies(1992, Arms & Armour Press)』▽『Stephen SaundersJane's Fighting Ships 2010-2011(2010, Jane's Information Group)』
魚雷を主兵装とし,魚雷攻撃や哨戒をおもな任務とする約200トン以下の小型の高速の軍艦。外洋航海能力はなく,おもに沿岸で使用される。魚雷艇の前身は水雷艇である。水雷艇は1877年にイギリスで初めて建造されたが,それが大型化したのが駆逐艦であり,小型のまま高速化したのが魚雷艇である。第1次世界大戦のイギリスのCMB(coastal motor boat),イタリアのMAS(motoscafi antisommergibili)が初期の魚雷艇の代表的なものである。第2次大戦ではアメリカのPT(patrol boat torpedo),イギリスのMTB(motor torpedo boat),ドイツのSボート(Schnellboot)などが,魚雷2~4本,機銃2~4基を持ち,特殊な船型,軽構造の船体に軽量大馬力の高速機関を備え,40ノット前後の高速を出して,イギリス海峡や南太平洋などで活動した。1970年代に入ってミサイルが発達したため,魚雷艇はほとんど製造されなくなり,ミサイル艇がこれに代わった。
執筆者:戸田 孝昭
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