日本大百科全書(ニッポニカ) 「ミツマタヤリウオ」の意味・わかりやすい解説
ミツマタヤリウオ
みつまたやりうお / 三又槍魚
Pacific blackdragon
[学] Idiacanthus antrostomus
硬骨魚綱ワニトカゲギス目ミツマタヤリウオ科の海水魚。北海道から土佐湾にかけての太平洋沖、福岡県津屋崎(つやざき)沖、小笠原(おがさわら)諸島近海など北太平洋の温帯海域に分布する。
本種は著しい性的二型を示し、最大体長は雌では35センチメートルほどになるが、雄では3.8センチメートルくらいにしかならず、雄は多くの特徴に幼魚の形態がみられる。また、仔魚(しぎょ)はきわめて特異な形態をしている(後述)。
雌の体はきわめて細長くて蛇状で、すこし側扁(そくへん)する。体は頭部でもっとも高く、体長は体高のおよそ20倍。頭長は短く、体長は頭長のおよそ15倍。吻端(ふんたん)は丸く、吻長は眼径より長い。目は小さく、頭の先端近くに位置し、眼径は頭長の6分の1よりやや短い。口は大きく、上顎(じょうがく)の後端は目のはるかに後方まで達する。上下両顎の長さはおよそ頭長に等しい。上下両顎にさまざまな大きさの倒すことができる多くの牙(きば)状の歯があり、先端に返し(逆向きに曲がった突起)がある。鋤骨(じょこつ)(頭蓋(とうがい)床の最前端にある骨)と口蓋骨にも数本の歯がある。鰓耙(さいは)はない。下顎に長いひげがあり、先端部は葉状に肥大する。ひげの長さは頭長の約1.8倍。体には鱗(うろこ)はないが、多数の小さい列状の発光器がある。腹びれより前にある腹側前発光器は34~40個、腹びれ基底(付け根の部分)から臀(しり)びれ起部にある腹部腹側発光器は20~24個、臀びれ起部から尾びれ基底にある尾部発光器は16~20個、腹側発光器の上列にある体側発光器は58~62個。目の後縁下方にある眼後発光器はきわめて小さい。眼下発光器はない。背びれの基底はきわめて長く、背びれは臀びれの約2倍。背びれの起部は腹びれよりも前方にある。背びれは54~66軟条、臀びれは28~43軟条。両ひれの軟条の起部には骨質の突起がある。臀びれ基底長は腹びれ起部と臀びれの起部間の長さより長い。胸びれはない。尾びれは二叉(にさ)し、上葉は下葉より長い。体は黒色で、ひげの先端の肥大部は白色。水深400~800メートルの中深層にすみ、夜に表層近くに来て、昼に戻る日周鉛直移動を行う。おもに魚類や甲殻類を食べる。
一方、雄は雌の9分の1程度の大きさで、雌よりは体が太短かく、体長は体高のおよそ19倍、頭長のおよそ8.3倍。目が大きく、頭の中央部よりやや前に位置し、眼径は吻長におよそ等しい。上下両顎にはじょうぶな歯がない。下顎にはひげがない。腹びれもない。体の腹側に列状に並ぶ微小な発光器はあるか、またはほとんど認められない。目の後縁下方にある眼後発光器は非常に大きく、およそ眼径に等しい。大きい目と、大きい眼後発光器は雌を探すのに役だつと考えられている。
体長3センチメートルくらいまでの仔魚には、頭蓋骨から長い柄(え)が出て、その先に目(有柄眼(ゆうへいがん))がある。これは餌(えさ)のプランクトンを探すのに役だつと考えられている。和名のミツマタヤリウオは、仔魚の1対(つい)の有柄眼と頭をあわせると三又の槍にみえることに由来する。有柄眼の柄は成長とともに短くなり、変態が終えるころに頭蓋骨の目の位置に収まる。
近縁種のナンヨウミツマタヤリウオI. fasciolaは、腹部腹側発光器が13~18個で、腹びれ起部から臀びれ起部までの長さが臀びれ基底長より短いことなどで本種と区別できる。ミツマタヤリウオ科をワニトカゲギス科の亜科とする研究者もいる。
[上野輝彌・尼岡邦夫 2026年2月13日]


