改訂新版 世界大百科事典 「ムラトーリ」の意味・わかりやすい解説
ムラトーリ
Lodovico Antonio Muratori
生没年:1672-1750
イタリアの歴史家,文献学者,聖職者。モデナ大学で哲学,法律学を修めた。1695年ミラノのアンブロージョ図書館に勤め,1700年にモデナのエステ公の文書館の司書となり,慈善団体の設立や社会福祉事業にも力を注いだ。一方,彼は俗語およびラテン語の文献を収集し,これを精緻に分類分析してイタリアの歴史の重みを裏づけようとした。この仕事の頂点に立つのが《イタリア史料集成Rerum Italicum scriptores》(RR.Ⅱ.SS. と略記される)28巻である。これは08年から38年に編集されたもので,イタリア各地を歴訪して500年から1500年にいたる中世イタリア史に関する文献(年代記,日記,伝記,叙事詩,法令集など)を収集し,新しい歴史学の基本的史料とした。このために彼は,単なる物語的歴史ではなく,批判的歴史学の創始者となった。この作品は1900年以後,イタリア歴史研究所がカルドゥッチらの監修のもとに改訂を重ね,今日まで出版がつづけられている。他方,《イタリア中世史論集》は1738年から43年にかけて編集された論文集で,《イタリア史料集成》の重要部分をより深くくわしく掘り下げる意図の下に,1000年より1500年にいたる文化,教会,風俗,法律を取り扱っている。1740年に彼が書きはじめた《イタリア年代記》は,俗語としてのイタリア語が生まれたときから1749年にいたるイタリア史である。これは平明な叙述で一貫し,フランスの歴史家ティユモンやマビヨンの作品に類似し,潤色されぬ真実のみを追求する。歴史家としての彼は近代歴史記述の重要な礎石を置いたが,政治的な問題には関心が薄く,個々の人間や社会福祉に関心を示すにとどまった。
執筆者:永井 三明
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報