日本大百科全書(ニッポニカ) 「史料批判」の意味・わかりやすい解説
史料批判
しりょうひはん
Quellenkritik ドイツ語
歴史の研究において史料の価値を吟味することを史料批判という。ここに批判というのは、道徳的意味で史料の善悪を判定するという意味ではなく、あくまでその史料が真実を伝えているかどうかの客観的測定の意味である。史料は歴史の材料であるが、ある史料がそのまま客観的史実を伝えているとは限らない。そこで史料の価値を吟味することが必要になる。史料批判の技術を学問的に発達させたのは19世紀のドイツ史学であり、これによって歴史学が科学となることができた。
あるテーマについて、史料となりうるものを収集し分類することを史料学Quellenkundeという。しかしこれは論理的な操作であって、具体的には史料批判と錯綜(さくそう)し、重複しながら行われる作業である。史料批判は、一般に文献史料について外的批判と内的批判とに分かれる。外的批判は、史料が(1)にせ物でないかどうかを調べる、(2)誤記・脱落あるいは改竄(かいざん)・竄入などがないかを調べる、(3)史料の出所や由来・伝播(でんぱ)の経路などを明らかにする、などの仕事をさす。この外的批判は、現代の情報技術の高度化によってまた新しい困難が増したといえる。内的批判は、書かれた史料について、その内容が信頼できるものであるかどうかを調べる仕事である。作者が虚偽を書いているとすれば、意識的か無意識的か、その心理状態・利害関係などを推理するといった歴史の観察眼が要求される。史料批判の具体的方法は、史料の多種多様なことに応じて多種多様である。
[斉藤 孝]