ドイツ連邦共和国の第8代首相。同国で初の女性首相であり、初の旧東ドイツ出身の首相でもある。
西ドイツのハンブルクで生まれるが、生後約2か月でプロテスタントの牧師である父に連れられ、東ドイツへ移住。カール・マルクス大学ライプツィヒ(現、ライプツィヒ大学)に入学し、社会主義統一党(SED)の青年組織である自由ドイツ青年団(FDJ:Freie Deutsche Jugend)に加入する。1977年、ウルリヒ・メルケルUlrich Merkel(1953― )と結婚。のちウルリヒとは離婚するが、ヨアヒム・ザウアーJoachim Sauer(1949― )と再婚した後もメルケル姓を名のり続ける。1978年からベルリンの科学アカデミー物理化学中央研究所に勤務。1986年に物理学で博士号を取得している。
1989年、ベルリンの壁崩壊後、市民運動組織「民主的出発(DA:Demokratischer Aufbruch)」に参加。東ドイツのデメジエールLothar de Maizière(1940― )政権の副報道官を務める。1990年12月、統一ドイツ最初の連邦議会選挙で、キリスト教民主同盟(CDU)の候補として当選。1991年1月、ヘルムート・コールの抜擢(ばってき)により、第四次コール政権の女性・青少年問題担当相となる。同年12月にCDU副党首、1993年にメクレンブルク・フォアポンメルン州の党支部代表。1994年、第五次コール政権で環境・自然保護・原子力安全相。1998年、CDU党幹事長。1999年末、前年に首相を辞任したコールの不正献金スキャンダルが発覚した際、コールを公然と批判し、2000年4月、党員の支持を背景にCDUで初の女性党首に就任した。2002年、CDU/CSU(キリスト教社会同盟)の連邦議会議員団長。
2005年11月、連邦首相に就任し、第一次メルケル政権(社会民主党〈SPD〉との大連立)が発足。51歳での首相就任は歴代最年少であった。その後、好調なドイツ経済と自らの人気を背景に、2009年、2013年、2017年の連邦議会選挙に勝利、第二次政権(CDU/CSUと自由民主党〈FDP〉の連立)、第三次政権(CDU/CSUとSPDの大連立)、第四次政権(同)を指導し、16年にわたって首相を務めた。
メルケルの政治スタイルは、良くいえば柔軟、悪くいえば日和見(ひよりみ)的である。自ら主義主張を唱えたり立場を固定したりすることはまれで、世論の動向を注視しながら、可能なら他党の政策でも取り込むことをいとわない。たとえばその柔軟性は、2011年の福島第一原子力発電所事故とそれに対する世論の反応を受け、それまでの自らの原発稼働延長方針を翻し、原発廃棄を決定したことに表れている。また、社会民主主義的でリベラルな政策も積極的に取り込み、最低賃金制度の導入や同性婚の合法化などを進めた。
外交的にはユーロ危機やウクライナ危機、イギリスのヨーロッパ連合(EU)離脱(ブレグジット)、アメリカでの第一次トランプ政権成立による米欧関係の危機など、相次ぐ危機対応に追われたが、そのなかでヨーロッパの実質的なリーダーとして存在感を高めた。
また、2015年9月、シリア難民らを受け入れるために国境開放を決断するなど、人道主義的な側面もみせた。ただし、この寛容な難民受け入れ政策は国内外でさまざまな議論を巻き起こした。2017年9月の連邦議会選挙ではCDU/CSUが第一党を維持したものの、同党とSPDの二大政党の得票が下落し、移民排斥的な右翼ポピュリズム政党の「ドイツのための選択肢(AfD)」の議席獲得を許した。
危機管理にたけていたメルケルだが、自国の経済的・政治的安定に甘んじ、多くの構造的な問題には手をつけず、先延ばしにした面もある。たとえば、国内のインフラ投資不足といった問題は放置され、徹底的な財政緊縮志向がそれに拍車をかけた。
外交についても、とりわけ対ロシア、対中国政策については問題が多かった。ロシアの強権的な政治についてはそのつど批判しつつも、ロシアとドイツを結ぶ海底ガスパイプライン「ノルドストリーム2」計画は停止しなかった。また、中国についても、当初の人権重視の政策はしだいに影を潜め、その後は経済重視的な対中政策を継続した。
メルケルは、2021年9月の連邦議会選挙には出馬せずに政界を引退し、ドイツ連邦共和国史上初めて自らの意思で辞任する首相となった。2022年2月にロシア・ウクライナ戦争が勃発(ぼっぱつ)したこともあり、メルケルの対ロシア政策は厳しい批判を浴びることになった。2024年11月には自伝『自由』を刊行した。
[板橋拓己 2025年8月19日]
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