改訂新版 世界大百科事典 「メーガドゥータ」の意味・わかりやすい解説
メーガドゥータ
Meghadūta
インド古典期の最高の詩人であるカーリダーサ(4~5世紀)が著したサンスクリットの抒情詩。〈雲の使者〉という意味。伝本は多く,南インド所伝のものは《メーガサンデーシャMeghasaṃdeśa(雲の伝言)》と呼ばれ,いずれも110ないし120の詩句よりなる。富の神クベーラ(毘沙門天)に仕える1人のヤクシャ(夜叉)が勤めを怠ったために追放され,中インドのラーマギリの山中に住んでいたが,雨季を告げる雲が北方に進むのを見て,ヒマラヤのアラカー(クベーラの都)に残した妻をしのび,雲に音信を託してよんだ詩という設定になっている。前編は雲が通過するであろう諸地方の光景を描写する。とくにウッジャイニー市(現,ウッジャイン)の詳細な描写は,前編中の白眉である。後編は美麗で豪壮な神都アラカーの叙述,妻の住む家の描写にあてられ,別離に苦しむ妻を慰め,再会の日が訪れるであろうことを雲に告げさせる。この抒情詩は短編ながら古来インドの文人により最高傑作とされ,詩論中にも詩作の鑑としてしばしば引用され,後代〈使者文学〉の流行を生んだ。西欧にも19世紀の初めに紹介され,ゲーテによって戯曲《シャクンタラー》とともに絶賛された。
執筆者:上村 勝彦
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報