ガムラン(読み)がむらん(英語表記)Maurice Gustave Gamelin

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ガムラン」の意味・わかりやすい解説

ガムラン(合奏形態)
がむらん
gamělan

インドネシアおよびマレーシアの代表的な合奏形態。ガメランともいう。語源については諸説があるが、一般にはgamě「道具を扱う」という動詞に接尾辞-anのついた語で「たくさんの楽器で合奏するもの」の意であると考えられている。ガムランは、西洋の管弦楽や東アジアの雅楽と並ぶ大規模な合奏形態で、旋律打楽器を中心とする一種のオーケストラとみなすことができ、このような合奏形態は東南アジアに広く分布している。起源については諸説あり、さだかではないが、その歴史は古く、すでに8世紀のボロブドゥール寺院の浮彫りに現れている。しかし現代に通じる近代的ガムランが誕生したのはおよそ17世紀とされる。ガムランの伝承は口承を本来とし(近年数字譜などの楽譜も考案されたが、メモ程度にしか用いられない)、地域ごとに独自の様式を発達させてきた。おもなものとしてジャワ、スンダ、バリの3様式があげられる。

[川口明子]

ジャワ様式

中部および東ジャワのもので、もともと宮廷と結び付いて発達し、さまざまな儀式や舞踊、影絵人形芝居ワヤン・クリなどの伴奏に使われてきた。その編成は時代とともに大規模になり、今日のガムランはおよそ次の4群からなる大編成になっている。まず主要打楽器群は、(1)主要旋律打楽器群 サロン(分厚い青銅鍵(けん)を槌(つち)でたたく)、スレンテム(吊橋(つりばし)状の薄い青銅鍵を布付き円盤桴(ばち)でたたく。竹製共鳴筒付き)。(2)旋律装飾打楽器群 グンデル類(スレンテムと同じく薄い鍵の青銅琴)、ボナン類(凸状釜(かま)形ゴングのセット)、木琴ガンバンなど。(3)周期的な拍節法をつかさどるリズム楽器群 両面太鼓クンダンクノン(大型釜形ゴング)、そしてゴング類(クンプル、ゴン・アグンなど)からなる。さらに、(4)胡弓(こきゅう)ルバーブ、縦笛スリン、箏(そう)チュレンプン、人声(女声ソロ、男声コーラス)が加わる。各楽器は、スレンドロ音列用、ペロ音列用の二つを一対として構成され、それぞれ曲や曲区分に応じて使い分けられる。曲は8拍ないし16拍(32拍、64拍のものもある)の主要旋律を基礎とし、強拍となる4拍目、8拍目などにリズム楽器がおのおのの周期に従って鳴らされる。この精緻(せいち)な構造と独特の響きをもつジャワのガムランは、ドビュッシーなど西洋の音楽家にも大きな影響を及ぼしている。

[川口明子]

スンダ様式

西ジャワのスンダでは、ジャワ様式とほぼ同じ編成をもつガムラン・ペロ・サレンドロg. pélog saléndroと、スンダ独自のもっと小編成のガムラン・ドゥグンg. děgungの二つが代表例としてあげられる。前者は、楽器編成はジャワ様式とほぼ同じだが、音列や曲の形式などはスンダ独自の音楽体系に従っている。女声ソロおよびクンダンの重要性がジャワより高いのが特徴で、主として木偶(でく)人形芝居ワヤン・ゴレの伴奏に用いられる。後者のガムラン・ドゥグンは、スンダの貴族社会のなかで発達してきたドゥグン音列(ペロ音列に近い)のガムランで、本来声楽を含まぬ純器楽合奏であった。今日では歌の入ることもあり、結婚式の余興などに広く使われている。

[川口明子]

バリ様式

バリ島では、ジャワのスレンドロとペロに符合する音列サイ・リマsaih limaとサイ・ピトゥsaih pituを基礎としつつも、ジャワとは異なり、形態も音楽もさまざまなガムランが用途ごとに各種並存している。代表的なものは、バリ最古の古典芸能ガンブを伴奏するガムラン・ガンブg. gambuh、それから発達した古いガムラン・ゴンg. gongとガムラン・ゴン・クビヤールg. gong kěbyar(舞踊伴奏、器楽合奏に併用)、さらにワヤン・クリを伴奏するグンデル・ワヤンgěndér wayang、木琴と青銅琴の合奏ガムラン・ガンバンg. gambangなどである。楽器も編成もジャワとは異なり、たとえば代表的なガムラン・ゴン・クビヤールでは、グンデル類を主とし、それを装飾するレオン(1列12個の凸状釜形ゴングのセット。4人奏)やトロンポン(同じくゴングのセット。1人奏)、そしてゴング類およびリズム楽器チェンチェン(台付きシンバル)が加わり、2台のクンダンが激しく掛け合って全体をリードする。

 ガムランは近年民族音楽学の発展とともに世界的関心を集めるようになったが、一方現地では近代化の波とともに「古いもの」になりつつある。このような時代との葛藤(かっとう)のなかで、インドネシア独立後は、各地で古典の伝承と並んで、新作の作曲など新しい模索もなされてきている。

[川口明子]


ガムラン(Maurice Gustave Gamelin)
がむらん
Maurice Gustave Gamelin
(1872―1958)

フランスの軍人。パリに生まれ、1893年サン・シール陸軍士官学校を卒業。1914年にはジョフル総司令官の幕僚長としてマルヌの会戦の勝利に貢献した。その後は陸軍部内の俊秀として1931~1935年陸軍参謀長、1938年国防軍参謀総長を歴任。第二次世界大戦開幕に際して連合軍総司令官に任ぜられたが、1940年春のドイツ軍の西部攻勢への対応策を誤り、同年5月、任なかばでウェーガン将軍と交替させられた。1940年10月ペタン政権に逮捕され、1943~1945年の間ドイツに抑留された。軍部内で数少ない共和主義的将軍としてダラディエ陸相に重用されたが、決断力に欠ける秀才官僚にすぎなかった。

[平瀬徹也]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ガムラン」の意味・わかりやすい解説

ガムラン
gamelan

インドネシアの代表的な器楽合奏およびその音楽。大小さまざまの規模の合奏形態が,舞踊や演劇と結びついたり,純音楽の形で,ジャワ島とバリ島にほぼ集中して存在する。楽器編成は多種の旋律打楽器,太鼓,笛,擦弦楽器から成る。 (1) ジャワのガムラン楽器の調律は,スレンドロあるいはペロッグの音階に従っているが,綿密には団体ごとに多少のずれがある。音階に含まれる音は,すべての曲のなかで使用されるわけではなく,曲ごとに応用する旋法が規定されており,これがパテットと呼ばれる。インドのラーガに似て,パテットは時間や季節の概念と連関しており,ヒンドゥー文化の影響としての『マハーバーラタ』と『ラーマーヤナ』叙事詩に基づく,舞踊劇や影絵人形芝居 (ワヤン・クリ) の上演時間をおのずから規定する。ジャワ島の内部で,ジャワ様式とスンダ様式 (西部ジャワ) を区別することができる。スンダでは小編成の微妙な音の美を楽しむ合奏が好まれ,ジャワ様式では,かつて宮廷音楽として大規模の合奏形態があった。オーケストレーションは,楽器を機能的に3つの群に分けて,層化された音楽構造をねらっている。主旋律を奏する楽器群 (サロンとスレンテム) ,旋律装飾を行う楽器群 (ボナン,グンデル,ガンバン) ,周期的な拍節法を執拗に明示するコロトミー楽器群 (ゴング,クンプール,クノン,クトック) が主要なグループで,さらにクンダン,レバーブ,スーリーン,独唱,合唱が加わると最大の規模となる。 (2) バリ島のガムラン楽器の調律は,サイリマ (スレンドロ) とサイピトゥ (ペロッグ) に基づいているが,演劇や舞踊にはペロッグ音階のものが用いられる。合奏形態はジャワ島の場合より詳細に規定される。たとえばガムランガンブー (7音ペロッグ) の形態は,ガムランゴングやゴングケブヤル (5音ペロッグ) の形態の元祖である。竹製楽器だけのガムランジョゲは,ジョゲという民俗舞踊のための音楽を奏する合奏形態である。影絵芝居を伴奏するグンデルワヤンはスレンドロのみが用いられる。2台1対のものが大小の2組,合計4台のグンデルが使われ,高度の音構成美を追究する知的な音楽のための合奏で,それに対しガムランアンコロンは,儀礼や村祭に使われたり,学校教育で使われたりする演奏の容易な機能音楽,あるいは娯楽音楽のための合奏形態である。

ガムラン
Gamelin, Maurice Gustave

[生]1872.9.20. パリ
[没]1958.4.18. パリ
フランスの陸軍軍人,将軍。第1次世界大戦中は J.ジョッフル将軍の幕僚をつとめたのち,師団長。 1931年陸軍参謀長。 38年国防軍参謀総長。第2次世界大戦が起ると西部戦線で連合軍司令官として指揮をとったが,40年5月にドイツ軍の攻勢によってフランス軍が崩壊すると,免職となった。敗戦の責任を問われて P.ペタン政府によって逮捕され,裁判にかけられた。 43~45年ドイツに抑留された。

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