改訂新版 世界大百科事典 「リー群」の意味・わかりやすい解説
リー群 (リーぐん)
Lie group
行列式の値が0でないn次実行列の全体GL(n;R)は,行列A=(aij)をn2次元ユークリッド空間Rの点(a11,a12,……,ann-1,ann)と同一視することにより,Rの開集合となる。GL(n;R)は行列の積により群となるが,対応(A,B)→AB⁻1による写像GL(n;R)×GL(n;R)→GL(n;R)は,GL(n;R)⊂Rとみるとき有理関数で表されるから,Cω級写像(実解析写像)である。一般に,Gは群であると同時にCω級多様体で,対応(g,g′)→gg′⁻1による写像G×G→GがCω級写像であるとき,Gをリー群といい,多様体としての次元がnのときGをn次元リー群という。GL(n;R)はn2次元リー群である。n次元リー群はまた次のようにも定義できる。Gは位相群で,その単位元eのある近傍Uからn次元ユークリッド空間Rnのある開集合Vの上への同相写像で次の条件をみたすものがとれるとき,Gをn次元リー群という。Uの元をそのVにおける像と同一視してRnの点で表すとき,Uの元x=(x1,……,xn),y=(y1,……,yn)に対し積xyがUに属せば,xy=(z1,……,zn)としてzi=fi(x1,……,xn,y1,……,yn)(i=1,2,……,n)と表せるが,関数f1,……,fnは2n個の変数x1,……,xn,y1,……,ynのCω級関数である。このようにリー群は群乗法の定義に関数の解析性の条件を含んでいるので,その研究に微分方程式論などの解析学が活用できてくわしく研究されており,位相群のなかで重要な地位をしめている。回転群などの古典群はすべてリー群である。
ベクトル空間Lにおいて,Lの任意の2元X,Yに対し[X,Y]で表されるLの元が定められていて,次の条件が成り立つとき,Lを(実数体上の)リー代数またはリー環という。(1)[X,Y]は双線型である。(2)[X,Y]+[Y,X]=0。(3)[X,[Y,Z]]+[Y,[Z,X]]+[Z,[X,Y]]=0。リー群Gの単位元eにおける接ベクトルのつくるベクトル空間をL(G)とし,L(G)の2元X,Yに対しL(G)の元[X,Y]を次のように定義すれば,L(G)はリー代数となる。eを通る曲線x:(-α,α)→G(x(0)=e)で(dx/dt)t=0がXを表し,|s|,|t|,|s+t|<αならばx(s+t)=x(s)x(t)であるようなものをとり,Yについても同様な曲線y:(-β,β)→Gをとる。このとき,の表す接ベクトルを[X,Y]と定義する。L(G)をリー群Gのリー代数という。例えば,GL(n;R)のリー環は実n次行列全体のつくるベクトル空間において,回転群SO(n)のリー環は実n次歪対称行列全体のつくるベクトル空間において,ともに[X,Y]=XY-YXと定義したものである。リー群の局所的性質は完全にリー代数の性質に帰着できる。リー群の理論は19世紀後半のS.リーの連続変換群の研究に始まり,20世紀に入ってE.カルタンとH.ワイルらの研究によって完成した。現代ではリー群は数学の種々の分野や理論物理学で広く活用されている。
執筆者:中岡 稔
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報