日本大百科全書(ニッポニカ) 「リー群」の意味・わかりやすい解説
リー群
りーぐん
Lie group
連結解析的多様体Gが同時に群であって、群の演算(g1,g2)→g1g2が積多様体G×GからGへの解析的写像で、さらに逆元をとる演算g→g-1がGからGへの解析的写像であるとき、Gをリー群または解析的群という。
このようにリー群は多様体と群の結合概念であるが、ノルウェーの数学者M・S・リーによって、幾何学や微分方程式を群論を用いて研究するため考え出されたもので、その名をとってリー群とよばれる。
リー群Gは、実多様体か複素多様体かによって、それぞれ、実リー群、複素リー群ともいう。実数全体の加法群R、実一般線形群GL(n,R)は実リー群であり、複素数全体の加法群C、複素一般線形群GL(n,C)は複素リー群である。
抽象的な群の場合と同じように、リー群の部分群、正規部分群、商群、準同型写像、同型写像などが、多様体としての自然な条件をあわせて考えて定義され、群論と類似のリー群論が完成されている。
リー群論の特長は、リー群Gにリー代数ɡが、次に述べるように、自然に構成され、重要な役割を果たすところにある。
リー群Gの元gに対し、解析的写像
Φg:G∋x→gx∈G
の微分dΦgは、Gの単位元eにおける接空間T(e)からgにおける接空間T(g)の上への線形空間の同型写像を与える。いま、Xe∈T(e)に対し、
X:G∋g→dΦg・(Xe)∈T(g)
で、多様体Gのベクトル場Xをつくる。このようなXの全体ɡ={X|Xe∈T(e)}はT(e)と同型な線形空間で、ベクトル場の積
〔X,Y〕=X・Y―Y・X
によって、一つの代数系となる。この代数ɡをL(G)と書き、リー群Gのリー代数という。
リー群GL(n,R)のリー代数は、n次実正方行列環Mn(R)から行列の積の差XY―YX=〔X,Y〕で得られるリー代数ɡl(n,R)になる。
任意のリー代数ɡに対し、L(G)=ɡになるようなリー群Gが存在する。
リー群Gのリー部分群Hのリー代数L(H)はL(G)の部分リー代数になり、逆にL(G)のリー部分代数ηに対し、L(H)=ηになるGのリー部分群Hがただ一つ存在する。
また、リー群G1からリー群G2への準同型写像fの微分dfは、L(G1)からL(G2)へのリー代数準同型写像になり、fはdfで決まる。
以上は、主として連結リー群について述べたが、連結でない多様体であるリー群も考えられ、リー代数の理論とあわせて、リー群論として、完成された数学の一部門になっている。また近年、p進数体上でも多様体が考えられ、p進リー群論もつくられて、整数論などに応用されている。
[菅野恒雄]