内科学 第10版 「るいそう」の解説
るいそう(症候学)
BMIから算出した標準体重より体重が20%以上減少している場合に,るいそうと診断する.ただし20%以下でも,短期間に急激な減量をきたす場合には臨床上問題となる.
成因・病態生理
脳では1日約100 g,ほかの組織では約50 gのグルコースを必要としている.絶食などのエネルギー欠乏状態ではこのグルコースを補うため,短期的(12~24時間のレベル)には,肝臓のグリコーゲン分解が起こり,その後にアミノ酸などによる糖新生,脂肪分解を生じる.長期的エネルギー欠乏時には筋肉蛋白質が利用されるようになる.この過程で生体は代謝を低下させるなど,エネルギー消費を抑制する方向で適応しようとする.このように,るいそうの病態生理は肥満発症と同様,摂取エネルギーと消費エネルギーのバランスおよび生体内エネルギーの代謝動態が問題となる.具体的には,疾患に伴う摂取エネルギーの減少,エネルギー利用障害,代謝亢進によるエネルギー消費の増大がある.
1)摂取エネルギー減少:
a)食欲低下:うつ病や神経性食欲不振症などの食事摂取量の低下は,中枢神経系の食行動調節系の機能異常に基づく.視床下部だけでなく大脳皮質連合野など高次中枢の関与があると考えられる.脳腫瘍など中枢神経系の器質的疾患による食欲低下もあるが,機能異常に比べ,頻度としては少ない.
口腔を含めた消化器系の疾患に伴う食欲低下は最も頻繁に観察される.胃潰瘍や炎症性大腸疾患などにおいて,悪心,嘔吐,腹痛などの消化器症状とともに食欲低下を認める.しかし,食欲抑制信号など疾患ごとの摂食抑制メカニズムは不明な点も多い.摂食調節の情報伝達系としては,まず消化管および肝門脈の求心性迷走神経系が消化管の機械的刺激やグルコース,消化管ペプチドなどに応答し,それらの末梢信号を神経性に延髄,視床下部へと伝達する.コレシストキニン(CCK)やグレリンなど摂食調節作用を有する消化管ペプチドによる液性情報伝達も重要である.全身性のものとしては,悪性腫瘍や炎症性疾患など消耗性疾患とよばれるものの多くに食欲低下を認める.これらの疾患では血液中に増加するインターロイキン-1βやTNF-αなどの免疫サイトカインが視床下部に作用し,食欲を抑制する.
b)消化吸収障害:消化酵素の機能低下や慢性の下痢を伴う疾患で認められ,結果的にエネルギー摂取の低下を起こす.消化性潰瘍,慢性膵炎,膵腫瘍(WDHA症候群やZollinger-Ellison症候群),蛋白漏出性胃腸症,吸収不良症候群などがある.
2)エネルギー代謝,利用障害:
糖尿病が代表的疾患である.インスリン作用が低下し,筋肉や脂肪組織でのグルコースの利用が低下する.グルコースが利用できないため,脂肪酸やアミノ酸をエネルギー源として用いるようになる.その結果,筋肉の蛋白質合成が低下する.インスリンの脂肪合成作用,脂肪分解抑制作用も低下する.ホルモン感受性リパーゼ(HSL)により脂肪分解が起こり,脂肪組織でトリグリセリド(TG)が分解されて,遊離脂肪酸(free fatty acid:FFA)とグリセロールが,血中に遊離され体重は減少する.
3)エネルギー消費亢進:
甲状腺機能亢進症や褐色細胞腫で認められる.甲状腺ホルモンやカテコールアミンによる代謝亢進作用によってエネルギー消費が増加する.また体温1℃の増加に伴ってエネルギー消費が10~15%亢進するため,感染症など発熱を伴う多くの疾患ではエネルギーバランスが破綻する.
鑑別診断
るいそうをきたす主要疾患を表2-24-1に示す.[浅原哲子・小川佳宏]
■文献
吉松博信,坂田利家:末梢代謝調節系の異常による食行動の調節障害.日本臨牀,59: 456-465, 2001.
出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報