改訂新版 世界大百科事典 の解説
ルースハウジングシステム
loose housing system
ウシを拘束せずに,広い囲いの中に放して飼う飼育方式。欧米では古くから用いられていたが,第2次大戦以降,畜産物の需要が拡大する一方で,農業労働力が不足したため,多頭省力管理が必要となり,その解決法の一つとして急速に普及した。日本においても,1950年ころから採用され始め,放飼い方式または解放飼い方式などと訳されて,乳牛または肉牛の飼育に用いられているが,土地基盤や畜産経営の立地条件などの違いから,欧米のようには普及していない。この方式がその有利性を発揮するためには,経営土地面積が広く粗飼料の供給が円滑で,その貯蔵が容易であること,労働力が得がたく機械の導入のほうが有利であること,飼育規模が大きくウシが群管理に適していることなどの条件が必要とされている。
この方式で飼う牛舎を放飼い式牛舎またはルースバーンloose barnといい,広い囲いの中には,ウシの居住の中心となる休息場および運動場,採食や飲水のための給餌場,給水場,および乳牛の場合はこれに搾乳室が設置されている。ウシは通常休息場または運動場で休んでおり,飼料を欲するときは給餌場へ,水を飲みたいときは給水場へ,ウシ自身が移動する。また,乳牛の場合,朝夕の搾乳時刻になると,搾乳室へウシが移動して搾乳される。すなわち,この方式は必要によりウシが移動することが特色である。したがって飼育管理のために人が移動するつなぎ飼い方式より,管理労働を節減でき,作業能率がよい。このほかの利点として,束縛しないのでウシの健康によい,火災などの場合事故が少ない,畜舎の建築費がつなぎ飼い式牛舎よりも一般に低廉である,収容頭数の増減に対し融通性が高いなどがあげられている。しかしながら,放飼いウシの間で競合,闘争が起こり,強いウシが弱いウシをいじめ採食が不足する,必ず除角しなければならない,個体観察が不徹底になり疾病,傷,および発情の発見・処置がおくれるなどの欠点がある。
執筆者:野附 巖
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報