日本大百科全書(ニッポニカ) 「畜産経営」の意味・わかりやすい解説
畜産経営
ちくさんけいえい
家畜飼養を中心とする農業経営、もしくは複合的農業経営の家畜飼養部門をさす。飼料作物栽培が経営内部仕向けを目的に行われるとき、それを畜産経営に含める場合が多い。
畜産経営は、飼養する畜種により次のように分けられる。
(1)酪農経営 牛乳・乳製品生産のための乳牛飼養。
(2)肉用牛経営 牛肉生産のための肉用牛飼養。
(4)養鶏経営 鶏卵生産のための採卵鶏飼養または鶏肉生産のための肉用鶏(ブロイラー)飼養。
(5)馬産経営 競走馬や馬肉生産のためのウマ飼養。
(6)メンヨウ経営 羊毛または羊肉生産のためのヒツジ飼養。
(7)その他 乳肉・繊維原料生産のためのヤギ・ウサギ・シチメンチョウなどの飼養、愛玩(あいがん)動物や実験動物の飼養。
なお、同一畜種でも各成長段階を別の経営が担当するときがある。たとえば肉用牛では、子牛を生産する繁殖経営(子とり経営)、肥育素牛(もとうし)を育成する育成経営、素牛を肉牛に仕上げる肥育経営があり、養豚経営にも、繁殖経営、肥育経営、およびそれをあわせた一貫経営がある。また採卵鶏経営には、種鶏経営(種卵生産)、孵化(ふか)場経営(人工孵卵)、育雛(いくすう)経営(成鶏への育成)、採卵経営(成鶏からの採卵)がある。
農業は動植物の生命体を利用する生産であり、土地と季節に基本的に縛られているだけでなく、動植物の成長にあわせて細心の注意を伴う異種継起的労働の投入が必要である。このような農業生産に対しては、それに適した性質を家族労働がより多くもっており、事実、農業生産の大部分は家族経営によって担われている。しかし、家畜飼養労働では、作物栽培と比べて土地や季節に束縛される程度はより低く、単純作業の繰り返しとなる部分がより多い。その結果、畜産経営では、家族経営から資本制企業まで多様な形態がみられ、同時に大規模な経営も現れている。
しかし、その程度は畜種によって異なる。酪農経営や肉用牛経営では、ウシが大量の粗飼料を必要とするため、放牧や飼料作物栽培が必要である。また、家畜の個体差が大きいため複雑な管理を要し、とくに繁殖育成過程では精神的な配慮を伴う作業が必要である。このため、酪農経営や肉用牛経営(とくにその繁殖経営)で家族経営が多くみられる。ただし、肉用牛の肥育は穀類の給与が中心であるため、アメリカの企業的フィードロットのように巨大な資本制企業もみられる。一方、配合飼料を与えるだけの養豚・養鶏経営では、家畜の個体差が小さく、生産物の標準化も進んでおり、作業も(ブタの繁殖経営を除き)単純な繰り返しが多い。そのため、家族経営を超えた大規模経営が多くみられ、なかには農外資本のインテグレーションに組み込まれた巨大企業も現れている。
わが国の畜産経営の実態は、養豚・養鶏経営で大規模化の顕著な進展がみられる。
[田 忠]