岩に打ち込んだくさびにロープを付けながら登る「リード」やロープを付けない「ボルダリング」がある。ジムの人工壁で気軽に楽しめるスポーツ・クライミングが人気を集め、自然の岩場を利用する愛好者も増えている。スポーツ・クライミングの2016年の愛好者数は約60万人。12年の約30万人から倍増した。競技は20年の東京五輪追加種目候補としても注目されている。
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岩登りともいう。ヨーロッパ・アルプスに興った近代スポーツ登山の中で生まれ,その登攀(とうはん)の技術や考え方は,世界の登山史の中枢を占めて現代に至っている。
19世紀を迎えるとヨーロッパでは山岳探究の興味が高まり,その後半期にはヨーロッパ・アルプスの名の知られた山頂のほとんどに登山者の足跡が印された。そしてこのころから,自分の体力や技術だけを頼りにしたガイドレス登山が行われ,困難や危険を承知のうえで,人の足跡のない新しいルートからの登山を喜びとし,そのルートの開拓が行われた。必然的に,鋭い岩稜や急峻な岩や雪の壁を登行するテクニックが要求され,岩登りに優れた能力を持つクライマー(登攀家)が輩出するようになった。20世紀になると,世界各地の未踏の高峰に数多くの遠征登山が行われたが,同時にまた,マッターホルン,グランド・ジョラスやアイガーなど,危険で登攀不可能といわれていた大岩壁が完登されていった。第2次大戦後,世界で初めて8000m峰のアンナプルナの登頂に成功し,続いて最高峰エベレスト山頂にも人間の足跡が印された。軽量でじょうぶな化学繊維による新しい装備や改良した酸素器具が使われ,一面では科学力の成功ともいわれたが,この優れた機能性をもつ衣服,テント,登攀用具は,冬の寒冷や悪天候の中での困難な登攀を可能にし,岩登りの分野を独立した形で定着させた大きな要因になったともいえよう。
険しい岩場が少ない日本では,登山に岩登り技術はほとんど必要としなかった。1921年槙有恒がアイガー東山稜の初登攀に成功して帰国したのが端緒で,近代アルピニズムが導入されたといわれるが,そのほかにも,少数の大学出身のクライマーや関西につくられた山岳会のメンバーの積極的な研究や啓蒙によって,岩登りへの意欲は一般に広がった。代表的な岩場はきわめて短期間に登られたが,技術的には,ヨーロッパ・アルプスのそれに比すべくもなかったといえよう。戦後,急速に立直りをみせた日本登山界は,優秀な用具や装備とそれに伴う新しい技術の輸入や,56年のマナスル初登頂の影響などもあって多くの登山愛好者を生んだ。輸入された用具の普及とあいまって岩登りが流行し,とくに,埋込みボルトの使用とダブルロープ技術による人工登攀によって,困難な垂直壁や岩びさしなどの登攀が可能になり,多くの新しいルートがつくられたが,狭い岩場で煩雑な初登ルートが重なり合うような弊も生まれた。しかし,これらのルートでは厳冬期の困難な登攀が続いて実行された。また,意識的に困難なルートを継ぎ,途中で露営をしながら長距離の岩登りを行う日本独特ともいえる継続(連続)登攀が行われた。そして,結果的にはこれがそのまま,1960年代後半から70年代にわたっての,ヨーロッパ・アルプス岩壁での日本人クライマーたちの活躍につながった。
1960年代になってアメリカのヨセミテなどにみられるように,困難度の高い岩壁登攀そのものを目的にしたものや,旧ソ連(現ウクライナ)のクリミア半島ヤルタの黒海に面した岩場で76年から隔年に開催されてきた,設定された困難なルートでの登攀スピードを争う国際競技会や,河原にある大岩など小範囲の壁に自分で制約を設け,微妙なバランスや摩擦を用いて登るボルダーリングboulderingなど,岩登りそのものの多様化が進み,ヒマラヤなどの高所登山の中での岩壁登攀とあいまって,いっそう岩登りそのものを目的とするようになり,新しい技術的な展開をみせている。
岩登りも足で歩くことが基本である。岩場にあるフットホールド(足がかり)につま先で立ち,ハンドホールド(手がかり)を利用してつねに姿勢を鉛直に保つ。手足の3点で体を支持(3点支持)した状態で,バランスを保ちながら柔軟な動作でリズミカルに移動するのが原則である。クラック(岩の割れ目)の登攀では,腕やひざ,背などによる摩擦を積極的に利用してのし上がる方法もある。登攀の手段に用具を使わないこのような登り方をフリークライミング(自由登攀)という。クライマーは,普通,岩登りに適した服装の上に,墜落時の衝撃を分散緩和させるためのボディハーネス(登攀用ベルト)を着け,頭部を保護するためのヘルメットをかぶる。冬の登攀には堅牢で保温性のある登山靴が用いられるが,無雪期には,軽量で摩擦性の高い柔軟な底をもつクレッターシューズ(岩登り靴)を使う例が多く,また,簡便なトレーニングシューズを用いる者もある。
パーティを組んだ2人または3人のクライマーは,墜落の危険を避けるためにザイルSeil(登攀用ロープ)を両端部で互いに自分のボディハーネスに連結(アンザイレン)し,交替で登攀するパートナーを確保(ビレーbelayまたはジッヘルsicher)しあいながら前進する隔時登攀(スタカートクライミングstaccato-climbing)を行うのが普通である。確保者は,自分の確保が失敗した場合,パートナーの墜落に引き込まれて墜落しないようにあらかじめ自己確保(アンカーanchor)をしたうえで,基本的には,自分の肩や腰にザイルを回して制動操作する確保(ボディビレーbody belay)を行うことが多い。とくに注意すべき点は,トップ(先頭者)が墜落したときは衝撃エネルギーがきわめて強く,確保に失敗して悲惨な結果を招きやすいことである。これを防ぐためには,墜落の瞬間にザイルを流し出しながら徐々に制動を加え,摩擦によって力のエネルギーを熱エネルギーに転換し吸収する制動確保(ダイナミックビレーdynamic belay)を行うことが必要である。そのために,確保者は制動用の手袋を使うのが普通であるが,この確保をより容易で確実にする目的で各種の制動器具を使う例も多い。
トップを登る登攀者もまた,墜落時の衝撃を少なくするため,ルートの途中に確保支点(ビレーイングピン)をつくり,カラビナを介したザイルをセットしていく(ランニングビレーrunning belay)。これによって,力は直接的に確保者に伝わることもなく,支点のつくる角度によって生じる摩擦やザイルそのものの弾力性が墜落時の衝撃力を弱めることになる。確保支点は,小さな岩の割れ目(クラック)にピトンpiton(頭部に輪をもった鉄釘,ハーケンともいう)を打ち込んでカラビナを掛けるのが一般的で,この2種の用具に打込み用のハンマーを加えて岩登り用の三つ道具と呼ぶ。戦後発明された埋込みボルトは,クラックのない垂直の岩壁や岩びさし(オーバーハング)にも確保支点をつくることができるため,2本のザイルでつり上げ確保されたトップが,あぶみを利用して困難なルートを次々に開拓することができたが,このように,用具を登攀の手段として積極的に使う方法を人工登攀(アーティフィシャルクライミングartificial climbing)という。現在,クラックの形状に応じて適当な大きさのクライミングナッツ(チョック)やフレンズを差し込んで,自在に働く複数のカムの力でビレーイングピンとして強い効果を上げる器具が開発され,登攀者の技術によって多様に機能し,また,回収も容易で何度でも使用でき,岩壁に破壊や変形の跡を残さずに済むために,使用者が急増している。
岩登りでは,装備や器具を使う技術が重要視されるが,第一には,自由登攀の技術を十分に身につけ,用具の性能を理解したうえで,訓練を重ねることによって初めて安全につながる登攀技術を身につけることができる。
→登山
執筆者:松永 敏郎
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山の岩場を登降する登山技術。ヨーロッパ・アルプスなどの氷雪を伴った岩峰の登攀(とうはん)には不可欠で、アルプス登山の黄金時代にザイル(ロープ)の使用などが発達したが、その後スポーツ登山を提唱したママリーが、1888年にグレポンの針状岩峰に初登攀し、岩壁登攀が登山技術の代表的なものとされるようになり、バリエーションルートよりの岩稜(がんりょう)や岩壁登攀が盛んになった。日本でも、1921年(大正10)に槇有恒(まきありつね)がアイガー東山稜の初登攀を行い、帰国後、岩登り技術や、ハーケン、ハンマー、カラビナなどの用具を紹介した。1924年には藤木九三(くぞう)がRCC(ロック・クライミング・クラブ)を創設し、六甲(ろっこう)山の岩場がゲレンデとなり、岩登りが著しく発達し、より困難な登攀を目ざして技術と用具が進歩した。第二次世界大戦後には、化学繊維や軽合金の進歩から、ナイロンザイル、埋め込みボルト、あぶみなどの用具が著しく発達し、昔は登攀不可能と思われていたオーバーハングの岩壁も克服されるようになった。しかし反面、ハーケンなど、岩壁に多くの人工的な用具を打ち込んで登るのは、登山の本質に背くのではないかという意見も多く、アメリカのヨセミテの岩壁などを中心に、クリーン・クライミングとして、なにも用具を用いずに登ることを重視する運動もおこって、登攀技術も多様化している。
ロック・クライミングの基本は、岩場の自然の凹凸を手掛り、足場とし、両手両足のうち3点をつねに安全なホールドに置いて、ルートを確認しながら、リズミカルに腕に頼らず足で登るということが基本で、このフリークライミングを十分に体得したうえで、用具を利用した、より困難な技術の習得へと進むべきである。ロック・クライミングの第一の条件はルートの確認である。岩場は、その岩壁の岩石によって割れ目の走り方や岩質のもろさが異なってくるし、それをよく理解して適応していくことが必要で、石灰岩の岩場と花崗(かこう)岩の岩場とでは岩質が非常に異なり、したがって用具の選択も異なってくる。また岩登りは、通常の健康な人であれば、とくに適性というほどのことはないが、傾斜、高度感などは訓練をしないと非常な恐怖感を伴い、これが危険と結び付く。岩登りの第一の要件は安全の問題であるから、十分に身体的条件を整え、バランス、平衡感覚など訓練してから実施する必要がある。
安全を守るために用具を用いるが、その中心はザイルで、ザイルの使用が登攀技術の中心であるともいえる。単独で行動することもあるが、通常は2、3人でパーティーを組み、1人が行動し、他の者が登攀者を確保する隔時登攀(スタカットクライミング)をする。全員同時にザイルを結び合ったまま行動する連続登攀(コンティニュアスクライミング)は、岩場ではあまり用いない。手掛りが少なく、また確保の支点に自然物が得られないときは、ハンマーで岩の割れ目(リス)にハーケンを打ち込み、利用する。割れ目のないときは埋め込みボルトを用いたり、割れ目にチョックを挟んで利用したりする。ザイルをこれに通す場合はカラビナを用い、また自然の木や岩を支点とするときにはシュリンゲを用いる。またオーバーハングの場所では、あぶみを用いて足場とする。下降も登るときと同様だが、手掛りの少ない所では、自然物やハーケンなどを支点として懸垂下降(アプザイレン)を行うこともあり、下降器などの用具を利用することもある。
岩壁の形状は、スラブ、カンテ、バットレス、チムニーなど複雑で、割れ目や凹角の形、岩質により逆層・順層があるなど、千差万別であり、これに適応した技術を駆使して安全に登攀・下降するために、総合的な判断・技術を要求される。したがって登攀のパーティーは、リーダーの指示のもとに互いに信頼しあった者で組まなければ危険である。また岩登りだけが登山ではなく、あくまでも全体的に山を楽しむための技術の一つであることを理解すること、またこの技術を基礎として、さらに積雪期の氷雪技術へと進むというように、登山を総合的に理解することが必要である。
日本・世界の各山岳地域に岩場があり、ロック・クライミングの舞台となり、その岩場にはグレイド(等級)がつけられているので、自己の技術に応じた等級を選ぶ必要がある。有名な場所としては、アルプスではアイガー、グランド・ジョラス、マッターホルンの三大北壁をはじめ、ドロミティ、ティロールなど、アメリカではヨセミテ、グランド・ティートンなどがある。日本では、北アルプスの穂高岳、剱岳(つるぎだけ)の二大岩場をはじめ、上越国境の谷川岳、南アルプスの北岳、山陰の大山(だいせん)など、古くよりクライマーの対象となっている。また東京周辺では三ツ峠、関西では六甲山が訓練のゲレンデとして知られており、また岩壁登攀の新しい訓練として用具を用いないボルダリングが、各地の小岩壁で用いられ、人工岩場も、アメリカのワシントン大学をはじめ各地に設けられ、日本でも立山(たてやま)の文部科学省登山研修所、神戸市登山研修所などに設けられている。ロック・クライミングは、登山のなかで華やかだが危険度も大で、遭難事故も多い。十分に安全を確保しつつ訓練を積んで実施することにより、楽しさが与えられることを銘記すべきである。
[徳久球雄]
競技としてのロック・クライミングは、国際スポーツクライミング連盟(IFSC)によるワールドカップ・シリーズや世界選手権などの国際大会と、日本フリークライミング協会による日本選手権などの国内競技会が行われている。
[編集部]
『文部省登山研修所編『高みへのステップ』(1985・東洋館出版)』▽『小西政継著『ロック・クライミングの本』(1978・白水社)』
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… ケービングは,洞窟(鍾乳洞,溶岩洞,氷河洞など)という限られた空間で,しかも暗やみで行動するスポーツであるため,身体保護のための着衣(つなぎ服がよい)やヘルメットなどの装備を必要とするが,特別のケービング技術はない。ほふく前進,懸垂下降といった技術やラダー(ワイヤばしご)の使用など,ロッククライミングの地底での応用である。また,地底湖などでは,ダイビングの技術・装備も必要となる。…
…
[登攀技術]
岩壁・氷雪の登降には安全を確認するため多くの用具を使用しての技術が要求される。岩登り,あるいはロッククライミングといわれる。岩登りの基本は両手両足のうち3点をつねに安全な手がかりや足場に置き,一つだけを動かし腕に頼らず足で登る。…
※「ロッククライミング」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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