アルピニズム

デジタル大辞泉 「アルピニズム」の意味・読み・例文・類語

アルピニズム(alpinism)

登山。特に近代スポーツとしての登山の方法・技術や精神を総合していう。

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精選版 日本国語大辞典 「アルピニズム」の意味・読み・例文・類語

アルピニズム

  1. 〘 名詞 〙 ( [英語] alpinism )
  2. アルプス登山。また、岩登りなど、高度の技術を必要とする登山。高山登山。
  3. 登山精神。〔現代術語辞典(1931)〕

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百科事典マイペディア 「アルピニズム」の意味・わかりやすい解説

アルピニズム

近代的なスポーツ登山のこと。登山一般を意味することもあるが,厳密にはより難易度の高い,高度な登山技術を必要とする登山のことを意味する。ヨーロッパ・アルプス地方の高山の,初登頂をめざす登山が盛んに行われるようになった19世紀後半に,このことばが生まれた。 もともと山には神が住むとか,魔物が住むとする民族が多く,一般的には山に近づくことを忌み嫌っていた。もし山に登るとすれば,信仰目的か,戦闘目的か,あるいは,動植物狩猟採集鉱物資源を採集する人びとに限定されていた。しかし,ヨーロッパ近代の精神は,神々の呪縛(じゅばく)から人びとを自由にするとともに,山に登ることそのものに限りない喜びを見出す近代登山に道をひらくこととなった。その先駆けとなったのが,イタリアの詩人ペトラルカであった。彼は1336年,南フランス・プロバンスバントゥー山(1912m)に登り,その時の感動を書簡にしたためた。その書簡によれば,彼はひたすら山頂での眺望を得たくてこの登山を試みた,という。以後,1358年にはB.ロタリオが雪をいただくロッチャメロネ山(3537m)に登り,1492年にはアントアーヌ・ド・ビユらが初めてザイルを用いてモンテギーユ山の登頂に成功した。こうして徐々に近代登山への道が開かれていったが,それでも登山の主な目的は,信仰や植物採集,測量,氷河研究などに置かれていた。 いわゆる近代登山としてのアルピニズムの幕開けとなったのは,1786年,アルプスの最高峰モン・ブラン(4810m)の登頂である。スイスの自然科学者H.B.deソシュールHorace Benedict de Saussure〔1740−1799〕が,モン・ブランの初登頂者には賞金を出すと提案し,これに応えたのがシャモニーの医者M.G.パカールと案内人(水晶取り)J.バルマである。19世紀に入るとヨーロッパ・アルプスの登山はますます盛んになる。とりわけ,英国人の活躍によってアルプス登山の黄金時代を迎える。登山技術も,さまざまな小道具の開発とともに,急速に発展していった。1865年には,E.ウィンパーが難攻不落といわれたマッターホルン(4478m)の初登頂に7回の挑戦ののちに成功。しかし,下山途中に4人の隊員が墜落死し,登山の安全性をめぐる議論が高まった。それにもめげずに,より困難な条件のもとでの初登攀(とうはん)の競争が続く。こうして,より困難なルートをたどったり,岩壁から氷壁へ,垂直登攀からオーバーハングoverhang登攀へ,さらには,厳冬期の登攀へとますます難易度の高い登攀がこころみられるようになった。日本人としては槙有恒が,1920年にスイスに渡り,1921年アイガー東山稜初登攀に成功して,世界の登山家の仲間入りをはたした。日本のアルピニズムはこの槇をとおして徐々に定着していった。
→関連項目アイゼンアルプス[山脈]ロッククライミング

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「アルピニズム」の意味・わかりやすい解説

アルピニズム
あるぴにずむ
alpinism

広義には登山のことであるが、とくに近代的なスポーツ登山において、登山すること自体のなかに喜びと楽しみを求め、技術と総合的知識を養い、全人格的に山に対して迫っていく考え方、思想をいう。山に魅せられた人間が山の頂上を目ざし、技術を駆使して多くの困難と闘いながらひたすら登る。ここにアルピニズムの真髄がある。

 スポーツとしての登山は1786年、近代登山の父とよばれるスイスのソシュールが組織した隊によるモンブラン登頂を端緒とする。ソシュール以来、アルプスをはじめカフカス、アンデスヒマラヤなど世界に名だたる処女峰の登頂が相次いで試みられ、登山技術や装備もこれに伴って発達した。さらに、より困難なルートによる登頂を目標とするママリー提唱のママリズムが関心を集め、困難な氷稜(ひょうりょう)や岩壁が登攀(とうはん)の対象となってきた。岩壁や氷壁にハーケンを打つなど装備を駆使する登攀に対し、あくまでも人間の力と技術のみに頼る考え方。ヒマラヤの高峰に無酸素で挑戦する考え方。頂上を目ざして直登する直登主義(ディレッティシマ)。大量の装備と人員を投入し極地法(ポーラーメソッド)で登る考え方。それに対して、登山の真髄は単独で山と語りつつ登る単独登攀にあるとする考え方。これら登山に対するさまざまな考え方、態度が交錯しつつ、アルピニズムが発達してきたといえよう。「山がそこにあるから」のマロリーの名言に象徴されるように、山があり、山に魅せられた人間があり、困難きわまる登山にスポーツ性を求める限り、世界のすべての高峰が征服されたとしても登山に終わりはなく、アルピニズムもまた無限に展開していくに違いない。

[徳久球雄]

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改訂新版 世界大百科事典 「アルピニズム」の意味・わかりやすい解説

アルピニズム
alpinism

広義には登山全体を指すが,とくに近代登山とその思想を指すといってよい。狩猟や信仰,測量などの目的による登山ではなく,登山そのものを目的として,より高く,より新しく,より困難な登山を目ざすことの中に喜びと楽しみを求め,科学的,総合的に知識と技術を養い,強い情熱をもって全人格的に登山に対していこうとする考え方である。このような考え方の登山者をアルピニストalpinistと呼び,ハイカーhikerとは区別している。この言葉は1787年スイスの学者ソシュールH.B.de Saussureがモン・ブランに登頂したころから用いられ,一般的になったのは19世紀後半に入ってからで,近代的スポーツ登山と同義的に用いられる。日本には1897年ごろからとり入れられ,志賀重昂の《日本風景論》の影響をうけ,1905年小島烏水らによって日本最初の山岳会(後の日本山岳会)が創設された。アルピニズムは処女峰の登頂からバリエーション・ルートの登攀(とうはん)へ,国内の山から海外の山へ,とくにヒマラヤ,アンデスの登山へと進み,技術的にはより困難な登攀の中に喜びを見いだすママリズム(イギリスの登山家ママリーが1880年代に提唱実践した新登頂主義)の影響をうけ,装備の改良と併行して不可能とされた垂直以上の壁の登攀も可能にしていった。地球上の山岳がすべて登攀されても,技術と装備の発達とともにアルピニズムはいよいよ発展を遂げるであろう。
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