逗子市
「源平盛衰記」巻二一(小坪坂合戦)によれば、治承四年(一一八〇)畠山重忠と戦った三浦勢は押され、和田義盛は伯父三浦義澄に「其れには東地に懸りてあぶすりに垣楯かきて待給へかし、こは究竟の小城なり。敵左右なく寄がたし」といったとある。「吾妻鏡」寿永元年(一一八二)一一月一〇日条に「御寵女亀前、住于伏見冠者広綱飯嶋家也、而此事露顕、御台所殊令憤給、(中略)仍今日、仰牧三郎宗親、破却広綱之宅、頗及恥辱、広綱奉相伴彼人、希有而遁出、到于大多和五郎義久鐙摺宅」とあり、同一二日条には「武衛寄事於御遊興、渡御義久鐙摺家、召出牧三郎宗親被具御共、於彼所召広綱、被尋仰一昨日勝事」とある。
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馬に乗る者が足をかけて身体の安定を保つためのもので,〈あしふみ〉からきた名称。足を掛ける部分を輪につくった輪あぶみと,足先の覆いをつけた壺あぶみとがある。輪の上端に方孔か環をつくって,革または鎖の鐙靼(みずお)をつけ,鐙靼の上端につけてある鉸具(かこ)によって鞍の居木にとおした力革(ちからがわ)に掛けてつるす。あぶみの起源と伝播がユーラシア大陸における騎馬の起源と伝播から年代的にかなり遅れるため,あぶみの発明をめぐって多くの議論がなされているけれども,はっきりしない点が多い。輪あぶみの発明に先立って,馬にまたがるとき足掛けとして使ったのちはずした,片側だけの革などの輪の存在が,前4世紀のスキタイその他で推定されているが,あぶみの発明につながる可能性が強いのは,4世紀初めの晋墓から出土した騎俑の左側だけにみられるあぶみ形の表現である。中国における最古の実例は,桑の木で輪をつくって金銅板を張った輪あぶみで,5世紀初めの北燕馮素弗(ふうそふつ)墓から出土しており,ヨーロッパで560年ころに初めて現れた輪あぶみは金属製であった。朝鮮や日本では,中国製品の輸入と模倣からはじまり,6世紀初めには鉄製輪あぶみに変わる一方,5世紀末には要所に金具をつけた木製壺あぶみがつくられ,7世紀から金銅製,鉄製の壺あぶみも加わって,鉄製輪あぶみや木製壺あぶみと並び使われた。正倉院の鉄製黒漆塗壺あぶみはこの系統を引くものである。唐代以後,中国では輪あぶみが多く使用され,近世になると踏込部を皿状に大きくしたものがつくられた。日本でも,唐鞍には輪あぶみが使用されたが,壺あぶみは踏込の後の舌と呼ばれる部分が次第にのびて半下あぶみとなり,鎌倉時代には舌長ができ,室町時代末に舌がやや短くなり,近世に各地で特色ある武蔵あぶみ,七条あぶみ,佐々木あぶみ,大和あぶみなどがつくられた。ヨーロッパでも,中世には踏込の先端部をとがらせたり,垂飾を加えたりする一方,足先を鉄線で覆った一種の壺あぶみなども行われたが,近世に普及した簡単な輪あぶみが19世紀中葉に日本にもたらされて,江戸時代のあぶみにとって代わった。
→馬具
執筆者:小野山 節
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馬具の一種。鞍(くら)に付属し、鐙革(あぶみがわ)で馬体の左右の外側につるされ、馬に乗り降りするときや乗馬中に騎手の足の重みを支え、馬上での騎手の動きを容易にするもの。日本語の起源は足踏(あしぶみ)が転化して「あぶみ」となったとされる。鐙を発明したのは乗馬の得意な騎馬民族ではなく、得意でない農耕民族が馬に乗るときの足ふみとしたものが発達して、騎手に都合のよい道具となったものと考えられている。鐙は出土品などからみて、紀元前4世紀のスキタイや前2世紀のインドや中国の漢の時代に存在していたらしい。鐙には種々の形が知られている。世界共通の鐙は輪鐙(わあぶみ)を基本としたものである。最初は革紐(かわひも)や縄が用いられ、のちに木製や金属製になった。日本には古墳時代に輪鐙が伝来し、5世紀以後には壺鐙(つぼあぶみ)がつくられ、奈良・平安時代には舌長鐙へと発展し、日本独特の舌のある鐙になって江戸時代に至っている。明治以後は輪鐙の一種である洋鐙が用いられている。
[松尾信一]
『日本乗馬協会編『日本馬術史 第3巻』(1940・大日本騎道会/1980・原書房)』▽『森浩一編『日本古代文化の探求・馬』(1974・社会思想社)』▽『加茂儀一著『騎行・車行の歴史』(1980・法政大学出版局)』
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