アウストロアジア語族(読み)アウストロアジアごぞく(英語表記)Austro-Asiatic

精選版 日本国語大辞典 「アウストロアジア語族」の意味・読み・例文・類語

アウストロアジア‐ごぞく【アウストロアジア語族】

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デジタル大辞泉 「アウストロアジア語族」の意味・読み・例文・類語

アウストロアジア‐ごぞく【アウストロアジア語族】

南アジア語族

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改訂新版 世界大百科事典 「アウストロアジア語族」の意味・わかりやすい解説

アウストロアジア語族 (アウストロアジアごぞく)
Austro-Asiatic

東南アジア大陸部とインドとに分布する諸言語を含む語族。〈南アジア語族〉の意で,日本では南亜語族という名称も使われていた。現在までに知られている言語の数は約150,使用者の総数は約4000万人と推定されているが確かではない。G.Difflothによる分類によれば,そのおもなものは以下のとおりである。

(1)ムンダ諸語Munda(インド)

 (a)北ムンダ語派 サンターリー語Santali,ムンダーリー語Mundariなど

 (b)南ムンダ語派 カーリア語Kharia,ソーラ語Soraなど

 (c)西ムンダ語派 ナハーリー語Nahali

(2)ニコバル諸島諸語Nicobarese

(3)モン・クメール語族Mon-Khmer

 (a)カーシー語派Khasi(アッサム地方) 標準カーシー語Standard Khasiなど

 (b)パラウン語派Palaungic(ビルマ) パラウン語Palaung,ワ語Wa,ダノ語Danaw,ラワ語Lawaなど

 (c)モン語派Monic(ビルマ,タイ) モン語Monなど

 (d)クム語派Khmuic(タイ,ラオス) クム語Khmu,ラメート語Lametなど

 (e)ベト・ムオン語派Viet-Muong(ベトナム) ベトナム語Vietnamese(南・北等の方言がある),ムオン諸語Muong(正しくはMu'o'ng)など

 (f)カトゥ語派Katuic(ベトナム) カトゥ語Katu,ブル語Bru,クイ語Kuy,パコ語Pacohなど

 (g)バナル語派Bahnaric(ベトナム,カンボジア) スティエン語Stieng,チュラウ語Chrau,スレ語Sre,ムノン語Mnong,ロベン語Loven,ブラオ語Brao,バナル語Bahnar,セダン語Sedangなど

 (h)ペアル語派Pearic(カンボジア) ペアル語Pear,チョン語Chong,サムレ語Samreなど

 (i)クメール語Khmer(カンボジア,ベトナム,タイ。北・中・南等の諸方言がある)

 (j)ジャハイ語派Jahaic(マレーシア) ジャハイ語Jahaiなど

 (k)セノイ語派Senoic(マレーシア) テミアル語Temiar,セマイ語Semaiなど

 (l)セメライ語派Semelaic(マレーシア) セメライ語Semelaiなど

 この中で政治・文化的に重要なのは,モン・クメール語族に属するクメール語(カンボジア語),ベトナム語モン語で,前2者はいずれも国語であり,モン語は古く栄えたモン族の言語として,ビルマ(現,ミャンマー)とタイとに文化的に大きな影響を与えた。この語族は20世紀初めにW.シュミットが発表した一連の論文により確立された。さらに彼は,アウストロネシア語族とも親族関係があるとし,両者を合わせてアウストリックAustric語族の名を与えたが,これはまだ定説とは言えない。

 この語族の大きな特徴のひとつは,接辞による造語法で,本来の語彙は,単音節の語と,それを語根として接頭辞または挿入辞をひとつだけ使用して派生させた2音節の語,語根の頭子音を繰り返すことによって派生した2音節語からなるのが原則であるが,ベトナム語は単音節語のみからなるのに対し,ムンダ諸語では接尾辞も使用,3音節以上の語も多い(ただし,これらの造語法は,現在では多くの言語で化石化し,新しく派生語をつくる造語力を失っている)。声調は本来有さないが,ベトナム語やビルマの諸語のように,周囲の言語の影響を受けて声調を持つに至ったものもある。インドシナの言語の多くは,かつての有声破裂音が無声化したことの代償として,register(母音の音色による対立)が発生し,二重母音化もおこり,結果としてかなり複雑な母音体系を持つものが多い。有気音と無気音の対立や前声門化子音preglottalized consonantを持つ言語も多い。語順は動詞+目的語で前置詞を使用するのが大部分であるが,ムンダ諸語は目的語+動詞で後置詞を使用する。クメール語とモン語は南インド系の文字を使用し,6~7世紀以来の記録を持つ。ベトナム語はかつて漢字から作った文字(チュノム)を使用したことがあった。
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百科事典マイペディア 「アウストロアジア語族」の意味・わかりやすい解説

アウストロアジア語族【アウストロアジアごぞく】

南アジア語族の意。W.シュミットが,インド中部からベトナムにわたる地域に散在する諸語を同系として命名した。(1)インドのムンダ諸語,(2)ニコバル諸島のニコバル語,(3)インドのカーシー語,ミャンマーとタイのモン語,カンボジアのクメール語,ミャンマーのパラワン語,ベトナムのベトナム語チャム語,マレーシアのセノイ語などを含むモン・クメール語族に分けられる。これら諸語の親族関係は完全に証明されたものではなく,蓋然(がいぜん)性のうえに立てられた仮説であり,上記以外の分け方もある。シュミットはさらにこの語族とアウストロネシア語族を合わせてアウストリック(南方語族)と名づけたが定説とはなっていない。
→関連項目タイ諸語パラウンミヤオ(苗)語

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世界の主要言語がわかる事典 「アウストロアジア語族」の解説

アウストロアジアごぞく【アウストロアジア語族】

東南アジアからインド中部にかけて散在し、同じ系統に属するとされる諸言語。インドシナ半島を中心に分布するモンクメール語族(モン語・クメール語・ベトナム語などを含む)、インドの北東部と中央部に点在するムンダ諸語、ニコバル諸島のニコバル諸語に大別される。これらは、この地域の在来の言語で、それが他の諸語族(シナチベット語族インドヨーロッパ語族など)の流入によって分断され、それらの影響下でさらに変化をとげたと考えられている。もとは単音節語と、接頭辞や接中辞を使って派生させた2音節語からなり、声調はなかったらしいが、ベトナム語は単音節語で声調をもつ一方、ムンダ諸語は3音節以上の語をもち声調はない。語順はムンダ諸語では「主語―目的語―動詞」だが、他は「主語-動詞-目的語」である。語族の範囲や分類は異説もあり、現在も定まっているとはいえない。◇名称は「南アジア語族」の意。英語でAustro-Asiatic。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「アウストロアジア語族」の意味・わかりやすい解説

アウストロアジア語族
あうすとろあじあごぞく

オーストロアジア語族

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世界大百科事典(旧版)内のアウストロアジア語族の言及

【インド】より

…すなわち,(1)アフリカから来て,アンダマン諸島,マレー半島方面に進んだネグリト系種族は,大集団としてインド亜大陸に定住することはなかったが,次に来た人種の言語に影響を与えている。(2)次いで,地中海地方の種族の一支派でパレスティナ地方からやって来たとされる種族の言語にネグリト族の言語の影響が及び,アウストロアジア系の言語(アウストロアジア語族)となった。古くは広い地域に分布したらしいが,今日では中部と東部のインド,バングラデシュなどの山岳・丘陵地帯で,数万人から1万人ぐらいの少数部族民により話される言語となっている(サンタール語,カーシ語など)。…

【東南アジア】より

…しかし例えば,今日の採集狩猟民は,旧石器時代の生活様式をそのまま保存してきたのではなく,農耕民が存在することを前提として特殊な発展を遂げた採集狩猟民であるように,共存によって民族間関係の体系が生まれ,また変化していくのである。
[語族,民族の形成と移動]
 東南アジア大陸部におけるおもな語族としては,アウストロアジア(南アジア)語族のモン・クメール語派,シナ・チベット語族のチベット・ビルマ語派,カム・タイ語派(タイ諸語),アウストロネシア(南島)語族のインドネシア(ヘスペロネシア)語派がある。 モン・クメール語派はインドのムンダ諸語とともにアウストロアジア語族を形成しており,この語派の言語を話す人々は採集狩猟民(ピー・トン・ルアン,セマン),穀物焼畑耕作民(ラメート族ワ族など),平地水稲犂耕民(モン族クメール族,ベトナム人)というように,さまざまな生活様式にわたっている。…

※「アウストロアジア語族」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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