ベトナム語(読み)べとなむご

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ベトナム語」の意味・わかりやすい解説

ベトナム語
べとなむご

インドシナ半島東海岸地帯に分布するベトナム民族の言語。ベトナム社会主義共和国の国語で、使用人口は約6000万。「ベトナム」が漢字越南」の字音読みであるため越南語(えつなんご)ともいい、自称では「越(ベト)」語という言い方もするが、かつては安南語、アンナム語とも称した。オーストロアジア語族モン・クメール系言語のベト=ムオン諸語に属す単音節型不変化語で、6種の声調をもつ音調言語。音節は[子音+母音+子音]構造で、音韻的には2個の短母音を含む11の母音音素と22の子音音素がたてられるが、子音のうち母音の前に現れる「わたり」の半母音を含めた頭子音を20、末子音を11に数える。北部・南部方言と中部方言に二大別され、前者はさらに北部および南部方言に分かれていて、実際には3種の方言が観察されるが、もともと北部のソン・コイ川(紅河)デルタを中心に居住していたベトナム人の中部・南部両地方への発展が16世紀以降であったため、規範とされる北部方言に対して他の方言が示す差異はさほど大きくはない。叙述形式は主語+述語+目的語の語順をとるが、修飾語被修飾語の後ろに置かれる点が、事物の性状をとらえて汎称(はんしょう)する類別詞名詞の前に置くことなどとともに文法上の特徴とされる。複数の第一人称代名詞に聞き手を含まない排除形式と聞き手を含む包含形式が区別されることや、親族名称が一般に人称代名詞や呼称詞として使用され、性別や年齢により、また話し手と聞き手の相対的地位を考慮して微妙に使い分けられることも興味ある言語事実である。ベトナム人が古くから中国文化と接触したため中国語からおびただしい語彙(ごい)を借用しており、新聞などで用いられる現代語の水準で70%前後の漢越語とよばれる漢語または漢字語彙が含まれている。これらの語彙は中国唐代の中国語の発音系統を引いて、11~12世紀ころに成立した越南漢字音で発音されるが、そのほかにも、より古い中国語から借用された古漢越語や唐代以降の中国語から借用されて民族語化したとされる越化漢語などが、民族語の語彙を補う形で語彙の全体を形成している。

 歴代封建王朝の社会では、漢字音で音読する漢文が書きことばで、漢字が唯一の公式の文字であったが、漢字を基に考案された民族文字チュノムによる話しことばの表記も13世紀ころから盛んになり19世紀まで行われた。しかし17世紀にキリスト教宣教師によって発明されたローマ字表記法がしだいに普及し、20世紀に入ると漢字とチュノムによる表記は廃止され、現在では独特の補助符号を用いたローマ字体系である国語(クオックグー)を正式の文字としている。

[川本邦衛]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ベトナム語」の意味・わかりやすい解説

ベトナム語
ベトナムご
Vietnamese language

安南語,アンナム語ともいう。ベトナムの公用語。話し手は 6000万人以上。単音節語的で6声から成る声調をもつ。語順は,主語-動詞-目的語 (補語) ,被修飾語-修飾語の型をとる。古くから中国との関係が深く,漢字文化圏に入っていたため中国語からの借用語が多く,その漢字音 (越南漢字音) は日本漢字音,朝鮮漢字音とともに中国語中古音再構の貴重な資料となる。文字は古くは漢字を用いたが,8世紀頃にはすでに漢字から派生的に考案された文字で本来のベトナム語を表わす試みも行われたと推定される。 14世紀には「チューノム (字喃)」が漢字を利用してつくられ,漢語を表わす漢字とあわせ用いられたが,現在は 19世紀のフランス統治下に普及した「クォク・グー (国語) 」と呼ばれるローマ字が用いられている。系統関係の証明されているのはムオン語とのそれだけで,モン・クメール系説,タイ系説とも確実なものとはいえない。

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