改訂新版 世界大百科事典 「タイ諸語」の意味・わかりやすい解説
タイ諸語 (タイしょご)
Tai
東南アジア大陸部に主として分布するタイ系諸言語をさす。総使用人口は3000万を下らない。地理的に,(1)南群(タイ語,北タイ語,ラオ語など),(2)西群(ミャンマー北東部のシャン語,クーン語,中国雲南省西部のルー語,インド・アッサムのカムティー語,死語となったアホム語など),(3)東群(ベトナム北部の黒タイ語,白タイ語,中越国境のトー語,ヌン語など),(4)北群(中国広西チワン族自治区のチワン語,貴州省のプイ語,海南島のリー語など)に分ける。言語的には(1)(2)(3)を南方タイ諸語,(4)を北方タイ諸語とするが,両者の区別は後者には破裂音系列に有気音がない点である。また(1)ではタイ祖語の有声破裂音が無声有気化したのに対し,(2)(3)では無声無気化している。さらに(2)と(3)では祖語の前声門化音の推移のしかたが違う。タイ諸語はすべて単音節を根幹とし,声調を有するが,歴史的には頭子音と密接な関係がある。
文法上はいわゆる孤立語であって語順が決め手となる。基本語順は〈主語+述語+目的語〉と〈被修飾語+修飾語〉である。名詞に数詞,指示詞,形容詞がつくと一定の類別詞を伴う。〈3匹の馬〉は南群と西群では〈馬・3・匹〉,東群と北群では〈3・匹・馬〉であらわす。タイ諸語の半数以上が文字をもつ。大別して南部,東部および西部タイ文字であるが,前2者はカンボジア系,後者はモン・ビルマ系である。北群は固有の文字をもたない。単語には借用語が多い。南群は古インド語(サンスクリット,パーリ語)とカンボジア(クメール)語から,東群はベトナム語から,西群はモン・ビルマ語から,北群は中国語からの借用が目だつ。
中国の貴州,広西,湖南各省に分布するカム・スイ語群(カム,スイ,マク,テン語など)はタイ諸語と親縁関係にある。タイ諸語の系統はシナ・チベット語族に入れるのが通説であるが,別にカダイ語群(ラティ,ラカ,ケラオ,リーの諸語)を介してインドネシア語派ないしアウストロネシア語族と結びつけようとするアウストロ・タイ語族説もある。なお,タイ諸語に上記のカム・スイ語群を加え,カム・タイ諸語とし,さらにカダイ語群をも含めてタイ・カダイ諸語とする分類を行う場合もある。
執筆者:松山 納
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報