日本大百科全書(ニッポニカ) 「アメーバ症」の意味・わかりやすい解説
アメーバ症
あめーばしょう
赤痢アメーバによる腸管感染症で、腸アメーバ症やアメーバ赤痢は代表的な病態の一つである。おもに腸管に潰瘍(かいよう)を形成し、臨床的に下痢、粘血便などの症状を呈する。二次的に肝臓、肺、脳、生殖器、皮膚にも病変をおこすことがあり、とくに肝臓ではアメーバ性膿瘍(のうよう)(アメーバ肝膿瘍)をつくる。
感染源としては、汚染された飲料水、肥料に人糞(じんぷん)を使用した野菜、ゴキブリで汚染された食物、不衛生な環境での人と人との直接接触、保有動物との接触が考えられる。赤痢アメーバは世界に広く分布しているが、とくに熱帯や亜熱帯地域では赤痢症状を呈する患者の発生が温帯地域に比較して多い。日本では1949年(昭和24)の公衆衛生統計によると、伝染病予防法による全法定伝染病中に占めるアメーバ症の割合は0.6%であったが、衛生環境の改善に伴い、その発生数は減少していた。近年では輸入熱帯病の一つとして注目されている。なお、伝染病予防法は1999年(平成11)感染症予防・医療法(感染症法)の施行により廃止された。アメーバ赤痢は、感染症法では5類感染症に分類される。
急性症状には腹痛、下痢があり、悪心、嘔吐(おうと)を伴うこともある。重症では1日数回から十数回の粘血便(赤痢症状)があり、下腹部痛を伴うが通常無熱である。まれに1週間程度で頻回の下痢、軽度の発熱を伴う脱水により死亡する場合もある。治療として急性期にはエメチンがもっとも効果的である。エメチン投与により急性症状は4~6日以内に改善され、便は固まる。同時に腸内細菌に有効な抗生物質を用いる。ついで急性症状の回復期にはヒ素剤、クロロキン、メトロニダゾールによる後療法を行う。慢性期には通常エメチン投与の必要はなく、ヒ素剤やメトロニダゾールを用いる。
[松本慶蔵・山本真志]