ウィルソン病(読み)ウィルソンびょう(英語表記)Wilson's disease

  • (子どもの病気)
  • (肝臓・胆嚢・膵臓の病気)
  • (脳・神経・筋の病気)
  • (遺伝的要因による疾患)
  • Wilson disease
  • Wilson disease (Inborn error of copper metabolism)
  • せんてんせいどうたいしゃいじょうしょう
  • ウィルソンびょう〔ビヤウ〕
  • ウィルソン病 Wilson Disease
  • 先天性銅代謝異常症

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典の解説

イギリスの医師 S.ウィルソン (1878~1936) によって分類された疾患で,肝レンズ核変性症ともいう。肝臓が異常蓄積する遺伝性の病気。幼児期に発病し家族性に現れる,きわめてまれな疾患。銅が肝臓に異常蓄積するため肝硬変が起り,また脳では基底核軟化あるいは変性の結果,錐体外路症状として全身筋肉に強直が起り独特の震えが伴う。またフライシェル・カイゼル角膜環といって,両眼の角膜の周辺に銅の沈着によって緑褐色の特徴ある環が形成される。

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デジタル大辞泉の解説

肝臓や脳に銅が異常に沈着する遺伝性の病気。肝硬変や脳の深部にあるレンズ核の軟化・変化がみられ、肝レンズ核変性症ともいう。英国の内科医S=A=ウィルソンが報告。

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百科事典マイペディアの解説

肝レンズ核変性症ともいう。遺伝性・進行性の,きわめてまれな疾患で,脳や肝臓に健康時の10倍以上の銅が沈着し,肝硬変と大脳基底核変化を起こす。角膜周辺には緑褐色の色素沈着が起こる。振顫(しんせん)と筋強剛が病初からみられ,しばしば,からだが動かせなく運動失調に進み,ふさぎこむなどの神経症状をきたす。徐々に進行する場合は,ペニシラミンを用いて銅の排泄を促進させることによって,ある程度の進行を抑えることができる。

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家庭医学館の解説

[どんな病気か]
 体内の微量金属である銅が、肝細胞(かんさいぼう)から胆汁(たんじゅう)中へうまく排泄(はいせつ)されない(排泄障害(はいせつしょうがい))で、肝細胞に沈着(ちんちゃく)する代謝性疾患(たいしゃせいしっかん)です。さらに、血液中の過剰な銅が、脳、腎臓(じんぞう)、角膜(かくまく)などに沈着し、それらの臓器や器官に障害をおこします。
[症状]
 肝型、神経型、混合型があります。
 肝型は肝臓への銅沈着によって、脂肪肝(しぼうかん)、急性および慢性の肝障害、やがて肝硬変(かんこうへん)をおこします。
 神経型は動作緩慢(どうさかんまん)、運動失調などの中枢神経症状(ちゅうすうしんけいしょうじょう)をおこします。
 混合型は肝障害と神経症状をおこします。
 ウィルソン病の三大症状は、肝硬変症、目の周辺にできる茶色の輪状着色(りんじょうちゃくしょく)(カイゼル・フライシェル角膜輪(かくまくりん))、中枢神経症状です。
 肝型は小児に多く、小児や青少年に肝障害がある場合は、この疾患を疑う必要があります。
 最悪の場合、肝硬変末期の肝不全(かんふぜん)、食道静脈瘤破裂(しょくどうじょうみゃくりゅうはれつ)、急性肝不全のいずれかによって、死に至ることもあります。
 原因は、常染色体劣性遺伝(じょうせんしょくたいれっせいいでん)による13番染色体の異常です。
[検査と診断]
 若い人に前記の三大症状があれば、この疾患が疑われます。
 検査をして、血清(けっせい)セルロプラスミンの低値、尿中銅排泄(にょうちゅうどうはいせつ)の増加がみられ、肝臓組織を微量採取して調べる肝生検(かんせいけん)によって、肝細胞の銅イオン濃度が増加していれば診断がつきます。
 最近では遺伝子診断も行なわれています。
 家族内発症を調べるためには、家族の血清セルロプラスミン値の測定が行なわれます。
[治療]
 銅キレート剤を内服し、銅含有量の多いチョコレート、貝類、レバー、ピーナッツ、海藻類の摂取(せっしゅ)をひかえます。
 欧米では肝移植(かんいしょく)が行なわれることがあります。

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世界大百科事典 第2版の解説

肝レンズ核変性症ともいう。伴性劣性遺伝による銅代謝異常疾患である。1912年にウィルソンS.A.K.Wilsonにより病態が明らかにされたことから,この名称が用いられている。病態は,おもに脳と肝臓に過剰の銅が沈着することにより生じる。脳のレンズ核の神経細胞の変性により,筋肉の緊張亢進や不随意運動が生じ,四肢の震え,運動障害,言語障害が起こるが,知能低下は生じない。肝臓には肝細胞変性,脂肪貯留が生じ,しだいに肝硬変へと進行する。

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日本大百科全書(ニッポニカ)の解説

銅代謝の先天性異常によっておこる疾患。遺伝形式は常染色体劣性遺伝である。肝硬変、錐体(すいたい)外路症状が主徴で、肝レンズ核変性症ともよばれる。1912年イギリスの神経医で病理学者のウィルソンSamuel Alexander Kinnier Wilson(1877―1937)によって記載されたので、この名でよばれる。
 体内に銅が異常に蓄積し、肝臓や大脳半球の深部にあるレンズ核では正常の5~10倍にもなり、組織が破壊される。発症はすべての年齢にみられるが、10~20歳と50~60歳にピークがある。若年発症では筋緊張の亢進(こうしん)、動作や言語の緩慢、構語障害、不随意運動、運動失調を示すが、高年発症では筋緊張は目だたず、振戦(ふるえ)を主徴とすることがあり、これを仮性硬化症とよんで区別する人もある。肝障害は若年発症で早くおこる傾向がある。銅の沈着によって角膜辺縁部に緑色ないし褐色のカイザー‐フライシャーKayser-Fleischer角膜輪を生ずることが多く、診断的価値がある。銅の尿中排泄(はいせつ)は増加しており、血漿(けっしょう)中の銅は減少しているが、これは、銅を結合する特殊タンパクであるセルロプラスミンの合成障害による。大部分の患者では、セルロプラスミンの測定によって診断が確定する。
 治療にはペニシラミンやトリエンチンといったキレート剤の投与が有効である。また、副作用が少ないとされる酢酸亜鉛製剤が、2008年に日本でも承認され、使用されている。厚生労働省の小児慢性特定疾患治療研究事業の対象となっており、医療費の補助が受けられる。[高橋善弥太]

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六訂版 家庭医学大全科の解説

どんな病気か

 銅は体内のあらゆる組織に存在し、重要な役割を果たしています。しかし、異常に蓄積すると有害な作用を示します。ウィルソン病では、銅を輸送する蛋白(ATP7B)の遺伝子異常により胆汁中への排泄が障害され、体内とくに肝、脳、腎に銅が蓄積し、それぞれの機能が障害されます。

原因は何か

 銅を輸送する蛋白(ATP7B)の遺伝子異常が原因で、常染色体劣性遺伝(じょうせんしょくたいれっせいいでん)する病気です。

症状の現れ方

 一般的には、5歳以降に肝機能障害を起こします。気づいた時にはすでに肝硬変(かんこうへん)を起こしていることが多いのですが、検査で異常が検出されてもほとんど自覚症状はありません。病気が進行し、はじめて全身倦怠感(けんたいかん)黄疸(おうだん)、肝腫大(はれて大きくなる)、腹水貯留(ふくすいちょりゅう)(たまる)などが現れます。肝機能障害が潜行し、劇症肝炎(げきしょうかんえん)溶血(ようけつ)発作で気づくこともあります。10歳以降に、脳が障害され、ろれつが回らない、手の震え、書字の乱れ、不随意(ふずいい)運動(意思とは無関係な体の動き)、歩行障害などが現れます。腎臓も障害され、血尿なども認められます。

検査と診断

 肝機能障害、とくにコリンエステラーゼの低下や凝固能の低下など肝硬変を示す異常がみられます。特異的な徴候として、血中セルロプラスミンや銅の濃度が低く、銅の尿中排泄が増え、肝における銅の蓄積が確認されます。病初期には認められませんが、銅は角膜にも沈着し、カイザー・フライシャー輪が認められます。

治療の方法

 銅の排泄を促すために、食間にキレート剤(ペニシラミン、トリエン)を経口投与します。また、銅の吸収を抑えるために、銅の含有の少ない食事をすすめ、また食後に亜鉛(あえん)を投与します。重度の肝硬変劇症肝炎を生じた場合には、肝移植療法も有効な治療法として選択されます。

病気に気づいたらどうする

 肝疾患の専門医か、先天性代謝異常症を専門とする医師による診察が必要です。

早坂 清

どんな病気か

 ウィルソン病は銅の代謝障害(たいしゃしょうがい)によって肝臓や脳に銅の蓄積が起こるために肝硬変(かんこうへん)になったり、脳の障害によって両手を羽ばたくような振戦(しんせん)が起こったり、バランスがとれなくなったり、あるいは筋肉の緊張が高まって手足が固くなる(固縮)などの症状が出る病気です。

 血液中には銅を運搬するセルロプラスミンという蛋白質がありますが、ウィルソン病ではこれが低下して銅を運ぶ機能が弱まって、肝や脳に銅が沈着して障害が起こります。

原因は何か

 ウィルソン病は遺伝性の疾患で、遺伝型式は常染色体劣性(じょうせんしょくたいれっせい)遺伝です。最近は遺伝学の進歩によって、この病気は13番染色体にある銅転送に関係する遺伝子の異常によって起こることが明らかになっています。

 人口10万人に1~3人の発症がみられます。

症状の現れ方

 10~20代のころから症状の出ることが多いです。

 肝硬変のほかに、頭部CT(図42)で示したように脳の深部にある大脳基底核(きていかく)のうち被殻(ひかく)淡蒼球(たんそうきゅう)に障害が強いので、手を鳥のようにばたばたと羽ばたくような振戦(自分で動かそうとしなくても両手が大きく震えてしまう)が起こり、手首や足首に固縮がみられます。そのほか、口を半開きにした顔の表情や、よだれを流すこともあります。言葉は不明瞭で、ゆっくりした話し方になります。

 精神症状としては感情が変化しやすく不安定になったり、性格が変化して付き合いにくくなったり、学業成績の低下が起こります。進行すると姿勢の異常や認知症(にんちしょう)小脳失調症(しょうのうしっちょうしょう)(バランスがとりにくい)などの神経障害が起こります。十数年の経過を経て、肝硬変のために死亡することもあります。

検査と診断

 以上に述べたように、肝障害と手の羽ばたき振戦を中心とした神経症状から、ウィルソン病を診察したことのある医師はすぐに診断ができます。検査としては、血清セルロプラスミンが低値であることや、血液検査で肝機能障害のあること、眼を見ると角膜周囲にカイザーフライシャー角膜輪(かくまくりん)といって銅の沈着のため角膜辺縁に灰色のリングが見える特徴的な所見が認められます。これらはみな、診断に役立ちます。

治療の方法

 標準的な治療法としては、まず銅を多く含む食品を減らすことです。銅を多く含む食品には、カニ、エビ、貝類、クリ、乾しブドウ、ココア、チョコレートなどがあります。

 次にD­ペニシラミン(メタルカプターゼ)を内服して、体内にたまった銅を排泄するようにします。D­ペニシラミンには副作用として全身の皮膚に赤い発疹が出たり、胃腸症状や白血球の減少が起こることがあるので、医師の観察のもとに注意して薬を服用します。

病気に気づいたらどうする

 10~20代の人で手の羽ばたき振戦のような不随意(ふずいい)運動が起こる時は、早期に神経内科医(年齢によっては小児科医)の診察を受けるようにしてください。早期に治療を始めれば、神経症状は経口的な薬で改善します。

 銅の沈着により肝硬変も起こるので、定期的に肝機能検査をして経過をみてもらうことが大切です。

栗原 照幸


どんな病気か

 ウィルソン病は、常染色体劣性遺伝(じょうせんしょくたいれっせいいでん)に基づく先天性銅代謝異常症(せんてんせいどうたいしゃいじょうしょう)です。胆汁への銅の排泄障害およびセルロプラスミンへの銅の取り込みの障害が本態です。

 銅が全身の臓器、とくに肝、脳、角膜、腎などの細胞内に過剰に沈着し、その結果引き起こされる細胞障害、臓器障害に基づき、さまざまな臨床像を示します。肝障害と脳幹基底核(のうかんきていかく)変性に基づく症状が特徴的です。そのためにウィルソン病は肝­レンズ核変性症とも呼ばれています。

原因は何か

 ウィルソン病は、前述したように常染色体劣性遺伝形式に基づいています。保因者は、日本では100~150人に1人と推定され、欧米の200人に1人という頻度よりも高く、決してまれな病気ではありません。また、ホモ保因者で発症するのは4万~9万人に1人です。患者数や分布には地域差があり、その保因者頻度は近親婚率によって左右されます。したがって、母親、家族の問診では、とくに両親の近親婚の有無が重要です。

 最近、13番染色体上のATP7B遺伝子異常が、ウィルソン病の原因遺伝子として特定されました。ATP7Bは、肝に特異的に発現するATP依存性メタルトランスポーターで、この異常によってセルロプラスミンへの銅の取り込みが損なわれて、胆汁中への排泄障害が引き起こされます。

症状の現れ方

 多様な臨床症状を示します。とくに肝硬変錐体外路(すいたいがいろ)症状(構音(こうおん)障害嚥下(えんげ)障害振戦(しんせん)不随意(ふずいい)運動筋緊張亢進(きんきんちょうこうしん)など)、カイザー・フライシャー角膜輪(かくまくりん)(角膜周辺に銅が沈着して1~3㎜幅の暗褐色の輪が認められる)の古典的な3主徴のほか、精神症状、腎尿細管(じんにょうさいかん)障害、造血障害、骨異常など種々の症状を伴うのが特徴です。

 ウィルソン病の原発臓器である肝臓の障害は、大きく劇症肝炎(げきしょうかんえんがた)(急性発症型)と慢性肝炎型に分けられます。後者は、脂肪変性から始まって慢性肝炎の時期をへて、徐々に経過しながら10~20年後に肝硬変になります。肝硬変に移行すると、くも状血管腫手掌紅斑(しゅしょうこうはん)黄疸(おうだん)、腹水、脾腫(ひしゅ)門脈圧亢進症状、食道静脈瘤(しょくどうじょうみゃくりゅう)肝性脳症(かんせいのうしょう)などの症状が出現します。

 好発年齢は、5~20歳ころまでですが、30~40歳で発症することもあります。銅の過剰蓄積は肝臓から始まるため、通常、肝障害が神経症状に先行します。一般に、10歳以下の若年発症のウィルソン病で肝障害が多いのはこのためです。その後年齢とともに、肝臓のほかに、脳幹基底核、腎、角膜への銅過剰蓄積が始まります。したがって、10歳以降では神経・精神症状での発症が多くなります。

●臨床病型

 ウィルソン病の臨床病型は、表11に示すように、①発症前型(無症状期)、②肝型(10歳以下の小児期に多い)、③神経型(10歳以降に多く、年齢とともに増加する)、④肝神経型(神経型と同様の傾向)、に大別されます。

 肝型には、急性に発症する劇症肝炎型(腹部ウィルソン)と溶血型が含まれます。これらは劇症肝炎のような急性肝不全症状や溶血性貧血を伴う場合です。急激で広範な肝細胞の壊死(えし)と、これに伴って多量の銅が血中へ放出されることによって赤血球膜の障害(溶血(ようけつ))や急性腎不全が引き起こされるため、予後が非常に悪くなります。

●病期分類

 ウィルソン病の病期(自然経過)は通常Ⅰ~Ⅲ期に分類されます。

 Ⅰ期は無症状期で、びまん性の銅沈着が肝細胞質に進行します。

 Ⅱ期は、肝細胞質の銅結合能が飽和状態となり、過剰な銅が肝臓内に再配分され、肝臓から放出されます。この再配分は患者さんの3分の2では緩やかに行われますが、時に急激で、肝細胞の大量壊死をもたらします。

 Ⅲ期は、肝の線維化や肝硬変が進行します。銅は脳、角膜、腎など肝臓以外の臓器や組織にも沈着して、それぞれの臓器障害を起こします。その速度や中枢神経への銅の蓄積が遅いと無症状状態が続くことがあります。一方、肝障害が急速であれば、Ⅱ期のように肝細胞壊死、肝不全を起こします。

 後述する治療によって、銅代謝のバランスが是正されると、肝障害や中枢神経障害の進行が抑えられて、多くは無症状となりますが、門脈圧亢進症状、不可逆性の脳障害は長く残ります。

検査と診断

 幼児期、学童期の発病は肝障害型が多いため他覚的所見が少なく、診断には家族、とくに母親への問診が重要です。子どもの無気力、集中力低下、学業低下、食欲不振、動作緩慢(かんまん)などの症状に母親など家族が気づいて受診する場合が多いからです。遺伝性の病気のため、血族に同じ病気をもつ人の有無も重要になります。

 早期発見が最も重要ですが、幼児や学童などに原因不明の肝機能障害がみられた時には(不随意運動などの神経症状を伴っている時にはなおさら)、まず第一にこの病気を疑うことが大切です。

 ウィルソン病の診断は、問診および臨床症状から銅代謝異常の可能性を疑い、血清総銅量およびセルロプラスミン濃度の低下、尿中銅排泄量の増加、眼のカイザー・フライシャー角膜輪の証明などにより、銅代謝異常のあることを診断します。

 さらに、肝生検による組織診断(脂肪肝(しぼうかん)、慢性肝炎、肝硬変(かんこうへん))、肝生検組織の銅染色、肝生検組織中の銅含有量の測定、胆汁中の銅濃度量の測定などによって、診断が確定します。

 他の重症肝障害に合併した二次性の低セルロプラスミン血症、肝内胆汁うっ滞症、精神神経症状を示す疾患(多発性硬化症、小脳疾患、パーキンソン症候群舞踏病(ぶとうびょう)、精神病など)との区別が必要です。

治療の方法と予後

 治療の基本方針は、銅の排泄促進を図ることです。早期に発見して早期に適切な治療を行えば、銅代謝異常をコントロールすることが可能であり、予後を十分に改善できます。

 しかし、神経症状がかなり進行した場合には予後は不良です。死因は肝不全、食道静脈瘤(しょくどうじょうみゃくりゅう)の破裂による消化管出血、神経障害、感染症などです。

①食事療法

 生涯にわたって銅含有量の多い食物(たとえば貝類、レバー、チョコレート、キノコ類など)の摂取を制限して、低銅食(1日1.5㎎以下)にする食事指導が行われます。

②薬物療法(表12

 体内にたまった銅の除去、銅毒性の減少を目指して、銅排泄促進薬(キレート薬:D­ペニシラミン、塩酸トリエンチン)による治療が、発症予防を含めて第一選択になります。生涯にわたって必要な治療であることを十分説明してもらい、納得して治療に専念することが大切です。また、肝障害や神経障害に対する対症療法も必要に応じて行われます。

 D­ペニシラミン(メタルカプターゼ)は、日本人の初期量として1日1000㎎(10カプセル)前後を投与し、効果判定をしながら増減します。もしくは1日200~400㎎(2分服)から始めて、漸増して800~1200㎎を続けます(5歳以下では1日200~400㎎)。効果の発現には数週間から数カ月を要します。

 この薬剤の副作用として、発熱、血球減少、皮疹、口角炎、全身性エリテマトーデス(SLE)様症状などに注意を要します。維持量に達したあとは決して中止しないように気をつけてください。リバウンド(反跳(はんちょう)現象)を起こして劇症肝炎様になり急性肝不全を起こすことがあります。

 なお、メタルカプターゼにはピリドキシン拮抗作用があるので、大量に投与する場合にはビタミンB6を併用します。

荒川 泰行


どんな病気か

 銅の輸送に関与する蛋白(たんぱく)(ATP7B)の障害によって、肝臓、腎臓、脳、角膜(かくまく)などに銅が蓄積することで発症します。

症状の現れ方

 小児期には肝機能障害で気づかれることが多く、進行すると黄疸(おうだん)が現れ、肝硬変(かんこうへん)となります。思春期以降では不随意(ふずいい)運動振戦(しんせん)(震え)、構音障害(こうおんしょうがい)、知能障害などの神経症状が現れ、角膜への色素沈着もみられます。

治療の方法

 銅キレート薬や亜鉛製剤の内服と銅制限食による食事療法を行います。早期に治療を開始すれば、予後は良好とされています。

出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報

世界大百科事典内のウィルソン病の言及

【肝機能検査】より

…この肝炎は慢性化しやすい。以上のほかに,特殊な肝臓疾患と関連した物質としてウィルソン病の診断をするため血清セルロプラスミン,ヘモクロマトージスに対しては血清鉄濃度および血清不飽和鉄結合能,原発性胆汁性肝硬変の診断に抗ミトコンドリア抗体,肝臓癌の診断には血清α‐フェトタンパクの測定が行われている。肝炎
[肝障害に伴う非特異的生体反応物質の測定]
 慢性肝炎や肝硬変では血清中の免疫グロブリン濃度が増大することが知られている。…

【ジストニー】より

…一定の肢位(たとえば起立位)をとるときに,筋緊張が異常に高まり,随意運動が妨げられ,変形した肢位に固定される。ひとつの症候群で,痙性斜頸spasmodic torticollis,ウィルソン病パーキンソン症候群など,種々の疾患にともなって出現する。また,ジストニーを呈する疾患のひとつである捻転ジストニーtorsion dystoniaあるいは変形性筋ジストニーdystonia musculorum deformansは,腰部前彎,胸部後屈,骨盤捻転,四肢の内転・内旋など,全身性のジストニーを呈し,起立時,歩行時に著しい。…

【先天性代謝異常】より

…(7)色素代謝異常 ポルフィリン代謝異常,ビリルビン代謝異常がある。(8)金属代謝異常 ウィルソン病,メンケス病など。(9)核酸代謝異常 レッシュ=ナイハン症候群,先天性痛風など。…

※「ウィルソン病」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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