日本大百科全書(ニッポニカ) 「ウグイ」の意味・わかりやすい解説
ウグイ
うぐい / 鯎
[学] Tribolodon hakonensis
硬骨魚綱コイ目コイ科に属する魚。イダ、イゴ、ハヤ、アカウオ、アカハラ、クキなどともよばれるが、近縁種を混称している場合がある。沖縄県を除く日本全国と樺太(からふと)(サハリン)、朝鮮半島南部に分布する。淡水域のみで一生を過ごすもの、一生の大部分を海で過ごし産卵期に川へ溯上(そじょう)するもの、一生のうちに海と川を何回も往復するもの、とさまざまな生活史を示す。後二者、すなわち回遊性のものは全長50センチメートル以上に達するが、前者は35センチメートルぐらいまでとやや小形である。いずれも鱗(うろこ)が小さく、側線は完全で、口ひげはない。背部を除く全身は銀白色であるが、産卵期には体側が朱赤色を呈し、背部は黒化する。
湖、池、沼や川の上流から下流までと広範囲に生息する。酸性水に強いことも有名で、ほかの魚のすめない酸性湖や酸性河川にも本種だけはみられる。川では大きく深い淵(ふち)にとくに多く、水生昆虫や付着藻類を主食にしている。イヌやネコなどの死骸(しがい)に群がって食いちぎり、夏には生ごみをあさる。湖では開水面の上層や中層を泳ぎ回って、浮遊生物を摂食し、琵琶湖(びわこ)では冬にコアユを食害する。海では沿岸部をおもな生息地としているらしく、港内などでよく釣れる。淡水産ウグイは水温13℃ぐらいで産卵を開始し、礫底(れきてい)の産卵場にはときとして数千尾が密集する。回遊性ウグイの産卵期はやや早く、水温11~17℃の増水時に一斉に川へ溯上してくる。
日本産ウグイ属には、本種のほかに次の3種が知られている。エゾウグイT. ezoeは北海道、東北の河川や湖沼に、ウケクチウグイT. sp.(学名未確定)は北陸地方に、それぞれ分布する。両者とも淡水域のみで一生を過ごすのに対して、マルタT. taczanowskiiは回遊性で、通常は沿岸部に生息し、産卵期に川へ溯上している。これらの3種は姿や形、産卵生態、食性などがウグイによく似ている。しかし、頭部感覚器の開口部の配列や婚姻色である朱赤色帯の発現部位が互いに異なる。ウグイ類は古くから食用としてかなり利用されており、実際に冬から春のものはそれほどまずくはない。一方、サケ・マス孵化(ふか)場では、卵や稚魚の害魚として嫌われている。
[水野信彦]