エウゲーニー・オネーギン(読み)えうげーにーおねーぎん(英語表記)Евгений ОнегинEvgeniy Onegin 

日本大百科全書(ニッポニカ)の解説

エウゲーニー・オネーギン
えうげーにーおねーぎん
Евгений Онегин Evgeniy Onegin 

ロシアの詩人プーシキンの8章からなる韻文小説。1825~1832年、章ごとに逐次発表。1833年初版刊。本文5300行余、それに「注」と「オネーギンの旅の断章」が添えてある。ほとんど全編、四脚のヤンブスによる14行の連(スタンザ)形式をとる。鋭い知性の持ち主ながらやや浅薄な都会育ちのオネーギンと、素朴だがうちに強い情熱を秘めた田舎(いなか)育ちのタチヤーナとの不幸な恋物語を中心に展開する。タチヤーナは隣村の地主となったオネーギンに熱烈な求愛の手紙を送るが、すげなく拒否される。些細(ささい)なことから親友レンスキーを決闘で殺し、放浪の旅に出たオネーギンは、4年後ペテルブルグで、いまは結婚して社交界の名流夫人となったタチヤーナに再会、恋に落ちるが、彼女は相手にしない。やがてタチヤーナの家での2人の最後の出会い。かつて自分の求愛を拒否した相手への恨みと、変わらぬ愛と、早すぎた自分の結婚への悔恨とを告白して永遠の別れを告げるタチヤーナの痛切なモノローグで物語は終わる。
 韻文小説という独特な構想はバイロンの『ドン・ジュアン』から得たものだが、政治的・社会的風刺を含まず、1820年代前半のロシアの生活をリアルに描いており、作者が主人公の「友人」として登場しつつも、けっして主人公と一体化せずつねに一定の距離を置いて扱う手法などは、ロマン的なバイロンの作品とは本質的に異なる。加えて作者はおりに触れて自分の思い出や人生観をくつろいだ態度で読者に語って聞かせる。プーシキンが全作品を通じて、これほど率直に自分の内部の世界を開いてみせた例はほかにない。この作品のスタイルの魅力をなす溌剌(はつらつ)たる生気と余人の追随を許さぬ「軽やかさ」は最後まで持続する。なお、1879年にモスクワで初演された、チャイコフスキー作曲の同名のオペラはこの魅力を欠くゆえに、原作とはまったく違った印象を与える。[木村彰一]
『池田健太郎訳『オネーギン』(岩波文庫)』

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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