改訂新版 世界大百科事典 「エフゲーニーオネーギン」の意味・わかりやすい解説
エフゲーニー・オネーギン
Evgenii Onegin
ロシアの国民詩人プーシキンの,8章から成る韻文小説。1825-32年刊。知性も能力もありながら,現実の生活に幻滅し,理想も信念も持たぬペテルブルグの高等遊民オネーギンは,伯父の死によって領地を相続し,いなかに住むようになる。近隣の地主の娘タチヤーナはオネーギンを熱烈に愛するが,オネーギンは彼女の美点を見抜けず冷たくあしらい,タチヤーナの妹と婚約している友人レンスキーを決闘で殺し村を去る。数年後タチヤーナと再会したオネーギンは,こんどは自分が愛のとりことなるが,タチヤーナは彼を理性的にしりぞける。社会・自然の諸相が活写されているこの作品は,ベリンスキーによって〈ロシア生活の百科事典〉と呼ばれ,その後のロシア小説の進むべき道を示した。オネーギンもロシア文学のいわゆる〈余計者〉タイプの先駆である。流麗な抒情性,軽妙で知的なアイロニーは,この作品にモーツァルト的な明るい清朗な味わいを与えている。
執筆者:川端 香男里
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報