エブリマン
Everyman
イギリス中世〈道徳劇〉の代表的傑作。おそらく15世紀末にオランダで刊行された《人間》を英訳したもので,16世紀初めにイギリスで出版された。〈エブリマン〉とは〈もろもろの人間〉〈あらゆる人間〉の意であるが,この作品では,普遍的な人間存在の代表者としてというよりも,カトリックのキリスト教徒の代表者として登場し,作中,一個の寓喩的な人物に転化する。この道徳劇の主題は,一種の〈メメント・モリmemento mori(死をおもえ)〉である。すなわち,人間は必ず死すべきはかない存在であり,死に際しては,現世の友情も財産も知識も美も分別もなんの役にも立たぬ,ただひたすらおのれの善行を大切にし,悔悛によって神の聖寵を受け,霊魂の救いを得るよう,人間は常に死を心にとどめ,神の栄光の中に生きることを心がけるべきである,と説く。道徳劇の伝統的な手法として,この作品もまた,友情,知識,美,分別等々の抽象観念を擬人化したアレゴリーとして登場させる。16世紀初頭の出版とはいえ,内容,形式ともに中世的な作品である。
執筆者:安東 伸介
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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エブリマン
Everyman
イギリスの道徳劇。執筆は 1495年頃で,オランダの"Elckerlijc"からの翻訳と推定される。人間をめぐる美徳と悪徳の葛藤をテーマとし,死が訪れたとき,最後の審判の席に立会ってくれるのは善行以外ないという教訓を寓意的に描く。知識,美,友情など擬人化されて登場する人物は,単なる象徴をこえて性格描写としても精彩を放っている。 1901年 W.ポールがロンドンで復活させた。 20年にホーフマンスタールによる翻案『イェーダーマン』 (1911) がザルツブルク祝祭の際,スペクタクル様式で上演されて大きな反響を呼び,以後同祝祭の恒例行事となった。
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
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世界大百科事典(旧版)内のエブリマンの言及
【道徳劇】より
…フランスではもとは道徳的教訓文学一般がmoralitéとよばれたが,のちにはこれらの道徳・教訓的比喩劇もそうよばれ,ときには他の宗教劇や茶番狂言も同じ名でよばれた。イギリス(系)の《[エブリマン]Everyman》《忍耐の城The Castle of Perseverance》,フランスの《酒宴の報いLa condamnation de banquet》などがよく知られた作品である。たとえばイギリス系(もともとオランダにあったものといわれる)の《エブリマン》はH.vonホフマンスタールの改作(1911)や,近代の復活上演でも知られているが,その内容は,不意に死神におそわれたエブリマン(人間一般の擬人化)があわてふためき,家族,友情,富などに身代りや援助をたのむが無駄で,最後には聖母マリアの取りなしでやせ細った善業と知恵と信仰にともなわれて死出の旅路につくといったものである。…
【エブリマンズ・ライブラリー】より
…当初はポケット判の小さな判型だったが,50年代から大きな判型になった。扉に中世道徳劇《エブリマン》の台詞,〈私は君とともに行こう〉が掲げられており,この叢書の姿勢を示していると言えよう。発行元はイギリスはデント社,アメリカはダットン社である。…
【道徳劇】より
…フランスではもとは道徳的教訓文学一般がmoralitéとよばれたが,のちにはこれらの道徳・教訓的比喩劇もそうよばれ,ときには他の宗教劇や茶番狂言も同じ名でよばれた。イギリス(系)の《[エブリマン]Everyman》《忍耐の城The Castle of Perseverance》,フランスの《酒宴の報いLa condamnation de banquet》などがよく知られた作品である。たとえばイギリス系(もともとオランダにあったものといわれる)の《エブリマン》はH.vonホフマンスタールの改作(1911)や,近代の復活上演でも知られているが,その内容は,不意に死神におそわれたエブリマン(人間一般の擬人化)があわてふためき,家族,友情,富などに身代りや援助をたのむが無駄で,最後には聖母マリアの取りなしでやせ細った善業と知恵と信仰にともなわれて死出の旅路につくといったものである。…
※「エブリマン」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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