改訂新版 世界大百科事典 「カラスムギ」の意味・わかりやすい解説
カラスムギ
wild oat
Avena fatua L.
ヨーロッパから西アジア原産のイネ科の越年草。畑地,とくに麦畑の雑草として普通であり,おそらくムギとともに日本へ伝わったものであろう。チャヒキグサともいう。茎はまばらに叢生(そうせい)し,高さは50~90cmで麦わらに似る。葉は少数,幅の広い線形で,長さは20cm前後,幅は1cmくらい,やや白っぽい緑色をしている。6月ころ,まばらでやや大型の円錐花序を出し,長さは20cmくらい,枝は非常に細く,花序の軸に輪生し,その先に1~3個の緑色で大型の小穂を垂らす。小穂には長さ2.5cmの苞穎(ほうえい)があり,普通3個の小花があり,小花は時に多少紫色を帯びた茶色で,あらい毛があり,背面から暗褐紫色の長い芒(のぎ)が出る。日本全土に広く帰化している。
カラスムギはカラスの食べるムギの意味であるが,中国やシベリアでは飢饉時に非常食となったり,北アメリカのインディアンは果実を食べている。また,牧草としても利用できるし,花序は干して染めたりしてドライフラワーとする。オートミールの原料のエンバクA.sativa L.(英名oat)はオートムギまたはマカラスムギとも呼ばれ,野生のカラスムギから選抜されてできた作物である。エンバクでは小花の芒が普通はない。これに近似の栽培種に穎果が穎から離れやすいハダカエンバクA.nuda L.や,小花に短い芒があるA.strigosaL.(英名black oat)がある。エンバクの子葉鞘(しようしよう)は光に対する感度が良く,適当に大きいため,植物生長物質に関するアベナテストという実験に利用される。アベナとはAvena,つまりカラスムギ属の名である。
執筆者:小山 鐵夫
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報