カルボカチオン(その他表記)carbocation

翻訳|carbocation

改訂新版 世界大百科事典 「カルボカチオン」の意味・わかりやすい解説

カルボカチオン
carbocation

炭素原子上に正電荷を有する有機化合物のイオンをいう。カルバニオンの対照語で,カルボニウムイオンおよびカルベニウムイオン総称である。配位数4または5の荷電炭素原子を有するカルボカチオンをカルボニウムイオンcarbonium ion,配位数3の荷電炭素原子を有するカルボカチオンをカルベニウムイオンcarbenium ionと定義する。この定義は1972年アメリカのオラーG.Olahにより提唱され,現在ではこの定義に従う場合が多い。したがって,たとえば,従来カルボニウムイオンと呼ばれていたt-ブチルカチオン(図1)やトリフェニルメチルカチオン(図2)は,それぞれトリメチルメチルカルベニウムイオン,トリフェニルメチルカルベニウムイオンと命名される。また,5配位のカルボカチオンでピラミッド形構造をもつ(C5H5)⁺(図3)は従来どおりカルボニウムイオンと呼ばれる。カルボカチオンは一般に,R-X結合(X=OH,Cl,Br,I,OSO2-CH3,OSO2-C6H4-CH3など)のヘテロリシス(不均開裂)や二重結合への陽イオン付加反応などによって生成する。一般には不安定で反応性が高く,求電子試薬として種々の有機化学反応にあずかる。シクロヘプタトリエニルカチオン(図4),ノルボルナジエニルカチオン(図5)などのように,室温で安定な結晶として単離できるカルボカチオンもある。
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化学辞典 第2版 「カルボカチオン」の解説

カルボカチオン
カルボカチオン
carbocation

有機化合物で共有結合数が3,イオン価が1+の炭素陽イオンR3Cをいう.カルボニウムイオンとよばれたこともあるが,カルベニウムイオンと称するのが正しい.共有電子を6個しかもたない不安定な状態である.たとえば,塩化トリフェニルメチルは,液体二酸化硫黄に溶かすと大きな電気伝導性を示し,トリフェニルメチルカチオンの生成が認められる.また,塩化アルミニウム塩化スズ(Ⅱ)を反応させると,塩の性質を示す着色した錯体を形成する.このように,非イオン性化合物のなかの炭素原子でも,イオン化できるという考えは,有機反応の反応中間体として取り入れられ,いろいろな反応においてカルボカチオンの概念が確立した.たとえば,ハロゲン化アルキルソルボリシスエチレン系炭化水素へのハロゲンハロゲン化水素のイオン的付加などにおける反応中間体である.

アルキルカチオンには,第一級,第二級,および第三級の別があり,安定性(生成しやすさ)は,一般にこの順で増加する.カルボカチオンに電子供与性基や二重結合が隣接すると安定となる.カルボカチオンの炭素は sp2 混成軌道をもち,これに結合する3原子は同一平面内にあり,原子価角は互いに120°あるいはそれに近い角をなす.

出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報

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