クレーロス(英語表記)klēros

改訂新版 世界大百科事典 「クレーロス」の意味・わかりやすい解説

クレーロス
klēros

くじ〉の意味から〈くじ引きで分配された分割地〉という意味になった語。ドリス方言ではクラーロスklaros。ギリシア諸市では一般に市民団ないし市民共同体の成員は,クレーロス所有者であることを原則としており,それは各市民が自己の家族の労働で耕し,経済的自立を支える一応の私有世襲農地であった。ヘシオドスはクレーロスの売買について述べているが,共同体の維持の目的から,クレーロスの移動は好ましくないため,いろいろな共同体規制が加えられることが多く,売買が禁止されることもあった。スパルタではスパルタ人は9000のクレーロスを分け与えられ,これをヘイロータイに耕作させ,そこからあがる現物貢納によって生活し,共同食事に参加した。そしてペリオイコイは3万のクレーロスを分け与えられたと伝えられる。スパルタ人のクレーロスは売買・譲渡を禁止されていたようであるが,前4世紀には譲渡が自由であったため土地集中がおこり,ために市民数の減少を招き,スパルタ衰退の原因となった。
執筆者:

出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

日本大百科全書(ニッポニカ) 「クレーロス」の意味・わかりやすい解説

クレーロス
くれーろす
klēros ギリシア語

古代ギリシアの世襲の私有地。元来くじを意味した語で、ギリシア人のエーゲ海域定住に際して、くじ引きによる土地の分配が行われた結果生じた名称と推測されている。市民の家のもっとも重要な経済的基盤を構成し、自由な処分は大きく制限されていた。スパルタでは、クレーロスは、市民に割り当てられた数家族のヘイロタイによって耕作されていたが、これを手放すことは完全市民としての資格喪失を意味した。

[前沢伸行]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

旺文社世界史事典 三訂版 「クレーロス」の解説

クレーロス
kleros

ギリシア語で「くじ」の意。転じてギリシアの分配地,世襲土地財産の意味
ギリシア人が征服した土地を自由人に分割する際,公平を期して抽選により分配したことに由来するといわれる。市民はクレーロス所有者であることが原則であり,クレーロス所有を維持することは,独立自営農民中核とするポリスの民主政成立の基盤であった。

出典 旺文社世界史事典 三訂版旺文社世界史事典 三訂版について 情報

山川 世界史小辞典 改訂新版 「クレーロス」の解説

クレーロス
kleros

古代ギリシアで「割当地,持分地」や「世襲地,相続財産」をさす。原義は「くじ」。定住の際,土地を共同体的に占取し,くじで各成員の持ち分を決めたことに由来するとの説もある。

出典 山川出版社「山川 世界史小辞典 改訂新版」山川 世界史小辞典 改訂新版について 情報

世界大百科事典(旧版)内のクレーロスの言及

【ギリシア】より

…ポリスは前8世紀ごろエーゲ海周辺のギリシア人のあいだに点々と成立し,前7世紀ごろから前4世紀に至る約400年のあいだに典型的に発展した共同体国家である。その特徴は,この共同体の成員すなわちポリス市民が世襲農地(クレーロス)を私有し,共同体自体が公有地をもっているという点にある。クレーロスは〈籤(くじ)〉を意味し,共同体がその占拠した土地を小地片に分割して籤引きで成員に分配したことに由来すると推定される。…

【スパルタ】より

…貴族層はメッセニア戦争に勝つために平民層へ一定の譲歩をせざるをえなかった。そこで戦後,市民全員にラコニアの地に分割地(クレーロス)が保証され,さらにメッセニアの地に貴族とかなりの部分の平民に追加のクレーロスが分配され,スパルタ市民=平等者(ホモイオイ)という,世界史上類をみない平等な土地所有者の市民団が形成され,その経済的基礎が確立した。前7世紀末から断続的に続いた対アルカディア戦は,平民層が重装歩兵密集隊の中核としての地歩を固め,その政治的権利を拡大する過程でもあった。…

※「クレーロス」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」