ヘイロータイ(英語表記)heilōtai

改訂新版 世界大百科事典 「ヘイロータイ」の意味・わかりやすい解説

ヘイロータイ
heilōtai

古代スパルタ隷農。ヘイローテースheilōtēsの複数形。ヘイローテスheilōtes(ヘイロースheilōsの複数形)ともいう。〈捕らえる〉の意ハイレオhaireōから,あるいは地名のヘロスHelosから出たとされる。前1000年ころ,ラコニアに侵入したドリス人のうち,スパルタの地を占領した一団が,その地の先住民であるアカイア人を征服し,これをヘイロータイとしたのが最初で,その後,前8世紀後半にスパルタ人がラコニア全域の占領を完了するまでに征服されたアカイア人,とくにエウロタス川の河口付近ヘロス地方のアカイア人がヘイロータイにされ,さらに第1,2次メッセニア戦争によって,前7世紀半ば近くにメッセニア全域がスパルタに併合されるまでに征服されたドリス系のメッセニア人の大部分が,ヘイロータイ身分に落とされた。

 ヘイロータイは,彼らが自由であったときに構成していた共同体ごとスパルタ人共同体に征服され,個々のヘイローテースは,かつての彼の土地に結びつけられたまま個々のスパルタ人に割り当てられたので,各ヘイローテースは,自己の共同体と家族と農具をもち,自己の土地を耕作して,主人であるスパルタ人に収穫の半分前後を納めた。個々のスパルタ人によるヘイロータイの解放や売却は許されなかったが,前5世紀後半以降,緊急の場合,従軍金銭の提供と引換えに,ポリスの手でヘイロータイを解放することがあった。しかしヘイロータイはスパルタ人よりもはるかに数が多く,またその地位に大きな不満を抱いていたので,スパルタ人はヘイロータイを厳しく監視,弾圧し,エフォロスたちは就任に当たり毎年ヘイロータイに対して宣戦を布告し,スパルタの若者は〈クリュプテイアkrypteia〉という慣習により屈強なヘイロータイをひそかに殺し,戦闘能力に優れた2000人のヘイロータイがポリスの謀略で暗殺されたこともあった。一方,ヘイロータイも機会をとらえては反乱を企て,とくにメッセニアのヘイロータイは,第2,3,4次メッセニア戦争と,前7~前5世紀に少なくとも3度の大反乱を起こし,結局,前369年,テーバイによって解放され,独立してメッセネを建てた。その後もラコニアにはヘイロータイが存続したが,前207-前192年の支配者ナビスが多数のヘイロータイを解放したときに,事実上消滅した。

 ヘイロータイは,古代の史料では奴隷,共同体の奴隷,自由人と奴隷の中間などと呼ばれるが,その実体においては中世農奴に類似した点が少なくない。そのため,彼らを奴隷と見るか農奴と見るかをめぐって長い間学説の対立があるが,最近は古典古代的形態の村落共同体をもつ隷属農民とする説なども唱えられている。なおスパルタではペリオイコイのもとにもヘイロータイがいたと考えられ,またヘイロータイに似た隷農は,クレタ島,テッサリア,アルゴス,シキュオン,黒海南岸のヘラクレイアなどにも存在した。
奴隷 →ペリオイコイ
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百科事典マイペディア 「ヘイロータイ」の意味・わかりやすい解説

ヘイロータイ

ヘイローテス,ヘロットHelotとも。ラコニアメッセニア地方に住み,スパルタ人に征服された古代ギリシアの先住民。土地に縛られて農業に従事した奴隷身分で身柄は国家に規制され,しばしば反乱を起こしたが,ヘレニズム時代に消滅した。
→関連項目ペリオイコイ

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旺文社世界史事典 三訂版 「ヘイロータイ」の解説

ヘイロータイ

ヘロット

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世界大百科事典(旧版)内のヘイロータイの言及

【スパルタ】より

…しかし近年の考古学のもたらした知見は,ヘラクレス一族の帰還という伝承に基づく上記の通説に深く疑いを挟み,被支配民の蜂起によるミュケナイ諸王国の滅亡などを示唆している。異説の当否のいかんによってはスパルタの国家成立過程,ペリオイコイヘイロータイの身分の由来についても根本的な見直しがせまられる。いずれにせよ,前8世紀中ごろまでには統一国家が形成され,その領域はスパルタ市を中心におおよそラコニア一帯に及び,前8世紀後半には,肥沃な土地を求めてメッセニアに侵入してステニュクラロス平野を併合し,その土地を貴族の間で分割し住民をヘイロータイとした(第1次メッセニア戦争)。…

※「ヘイロータイ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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