日本大百科全書(ニッポニカ) 「グリオキシル酸回路」の意味・わかりやすい解説
グリオキシル酸回路
ぐりおきしるさんかいろ
glyoxylate cycle
微生物と植物にだけ存在する代謝経路。微生物が酢酸だけを炭素源およびエネルギー源として生育するときや、植物の脂肪種子が発芽する際に用いる合成経路で、1957年H・A・クレブスらによって提唱された。クエン酸回路(TCA回路ともいう)の一部と類似した環状の経路で、この回路のなかに2分子の酢酸が取り込まれ、回路を1回転すると1分子のコハク酸が生成される。酢酸を炭素源とする細菌では、この経路によって糖をつくりだし、さらに生体構成物質をつくる。
高等植物では、脂肪を貯蔵物質とする種子が発芽する際にこの経路の酵素群が発現して貯蔵脂肪が糖に変えられ、これから生体成分がつくられる。この回路の酵素はβ(ベータ)‐酸化系の酵素とともにグリオキシゾームという細胞内の顆粒(かりゅう)に局在し、発芽初期に活性が高くなるが、発芽後期には活性が減少する。
[吉田精一]
グリオキシル酸回路はTCA回路と共有する経路をもち、TCA回路の側路となる。TCA回路の場合、アセチル補酵素Aのアセチル基(CH3CO-)の2個の炭素原子は2分子の二酸化炭素になってしまうが、グリオキシル酸回路の場合は、アセチル基2個を取り込んで炭素原子4個からなるコハク酸が生ずる。このコハク酸はさらに変化を受けて糖やアミノ酸になる。脂肪もアセチル補酵素Aにまで分解されてからこの回路に入る。高等動物にはこの回路がないので、脂肪から糖をつくりだすことはできない。
[飯島康輝]