日本大百科全書(ニッポニカ) 「コンパクトシティ」の意味・わかりやすい解説
コンパクトシティ
こんぱくとしてぃ
compact city
交通、商業、医療、教育、行政などの機能を都市中心部に集約しようという概念。この概念を実現した都市もコンパクトシティとよばれる。大型商業施設、病院、学校などの郊外立地を抑制し、交通手段として自動車より路面電車やバスなどの公共交通機関や徒歩・自転車を重視し、コーポラティブ住宅(組合形式の集合住宅)の整備など「街なか居住」を推進する、といった特徴をもつ。中心市街地の活性化、行政サービスの効率化、財政支出の削減などの効果をもたらし、いわゆる買い物難民の解消、高齢者による運転事故の抑制、車の利用減による地球温暖化防止などの利点もあるとされる。通常、中心部への誘致を政策的に促すと同時に、駅、商業施設、病院などを連結した公共交通網を整備する「コンパクトシティ・プラス・ネットワーク」の政策がとられる。アメリカのニューアーバニズムnew urbanism、イギリスのアーバンビレッジurban villageなどが類似の概念で、海外ではアメリカのポートランド、ドイツのフライブルク、オーストラリアのメルボルンなどが代表的なコンパクトシティとされる。
日本では高度成長期にモータリゼーションが進み、地価の安い郊外に大型商業施設や居住地が建設され、中心市街地の空洞化(ドーナツ現象)や郊外の環境破壊を招いた。しかし20世紀末から、地方の人口減少や少子高齢化が進み、利便性、効率性、財政的制約からコンパクトシティ化を進めるべきであるとの機運が高まった。国は1998年(平成10)に中心市街地活性化法を制定し、2006年(平成18)にまちづくり三法(都市計画法、中心市街地活性化法、大規模小売店舗立地法)を改正して、中心地の活性化と郊外での大型商業施設の建設抑制に乗り出した。2014年には都市再生特別措置法と地域公共交通活性化再生法を改正し、補助金、税制優遇、規制緩和などで誘導区域へ都市機能と居住機能を集約し、次世代型路面電車システム(LRT)やバス高速輸送システム(BRT)を整備する政策を打ち出した。JR青森駅周辺に都市機能を集約しようという青森市や、LRTを活用した富山市が先進事例として知られ、全国で約500の地方都市コンパクトシティ戦略を進めている。
[矢野 武 2019年9月17日]