日本大百科全書(ニッポニカ) 「サイリスタ」の意味・わかりやすい解説
サイリスタ
さいりすた
thyristor
電流を制御する機能をもつ半導体素子。シリコン(ケイ素)半導体でつくられた電力用3端子スイッチング素子で、オフ状態からオン状態への切り替えを制御電極で行うことができる。シリコン制御整流器、あるいはSCR(silicon controlled rectifierの略称)ともいう。サイリスタとは初めアメリカのゼネラル・エレクトリック社の商品名であったが、のちIEC(国際電気標準会議)でその使用が認められ、一般名となっている。サイリスタは のような電圧電流特性(電圧と電流の関係)をもち、逆電圧を加えたときには、普通の整流器と同じように電流はほとんど流れない。また順電圧を加えると、ある電圧でオフ状態からオン状態に移り、低電圧で順電流が流れるようになる。このオン状態にスイッチする電圧は、制御電極に流す電流によって変化し、電流を多くするほど低い電圧でスイッチするようになる。
サイリスタの構造は、陽極、陰極、および制御電極の三つの電極が取り付けられている。陽極に正、陰極に負の電圧を加えると、n1p1接合、n2p2接合は順方向バイアス、p2n1接合は逆バイアスとなって電気二重層ができ、外部からの電圧はほとんどp2n1接合にかかる。このときの電流は、大部分がp2n1接合の逆電流からなる。しかし制御電極から電流を流すと、n2p2接合の電流が増え、n2層から注入された電子がp2層を横切ってn1層に到着し、電気二重層の電荷を中和してp2n1接合の電圧を下げる。するとn1p1接合にかかる電圧が上昇して電流が増し、その結果、電気二重層の電荷が中和され、p2n1接合の電圧をさらに下げる。これが繰り返されて低電圧で電流が流れるようになり、スイッチ作用が発生する。このサイリスタでは、いったんスイッチしてしまうと、制御電極でオフ状態にすることはできないが、オフ状態にできるサイリスタも開発され、GTO(gate turn-off thyristorの略称)とよばれている。
のような導電形の異なる4層のシリコン半導体からなっており、サイリスタを交流に用いると、半波ごとに通電する位相を制御することで電流量が変化するので、扇風機、洗濯機などの交流モーターの回転速度の無段階制御ができる。また、これを用いて直流から種々の周波数をもつ交流をつくることができるので、JRの交流電化区間における電車の速度制御、商用電源の50ヘルツ(関東)と60ヘルツ(関西)間の周波数変換にも使われている。この方法は交流モーターの電子制御に適しているので、1990年代以降ではエレベーターの速度制御や、家電品のモーターや自動車用のモーターの速度制御、高効率化のため広く用いられている。
[右高正俊]